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「……悪いかよ」
そっぽを向き、素っ気ない態度をとるレイトに、男は微笑む。
「そんな事ないよ。ただ、なんていうか……道具見せて喜ぶって、赤ちゃんみたい」
「赤ちゃんじゃねーよ!」
レイトが険しい表情をするが、男は腹をかかえて笑った。頬が上がりきって、目が細くなっている。
「ごめんごめん。思い通りの反応だったから、つい……ブフッ」
「謝ってねーだろ、それ!」
「悪いと思ってるよ。待って、今、落ち着くから……」
男は深呼吸を繰り返した。大笑いのあまり閉じていた瞼を開けると、レイトと目が合う。レイトは不快感を丸出しに顔をしかめていた。
"思い出し笑い" が引き金となり、男は声をあげて笑い出した。さっきよりも症状が強いのか、前かがみになり、背中を丸めて下を向く。
「違うんだ……笑ってない、笑ってないから……」
何やら弁解を始めた男だったが、膝をついて蹲ってしまった。背中を震わせたまま、とうとう喋らなくなった。
「何がそんなに面白いんだよ」
レイトは地べたにへばり付いている男を睨みつけた。小刻みに震えていた男の体が、時間が経つにつれて、深い呼吸の動きに変わっていく。手をついて体を起こし、片方ずつ脚を立てながら、ゆっくり立ち上がった。
「ごめんね」
男は眉をハの字にして謝罪する。
「イジメ甲斐が……あっ、違う、からかい甲斐が……じゃなくて、一緒にいると楽しくて笑っちゃった」
「嘘つけ。2回言い直しただろ。わかり易いくらいに」
「…………正直に言おう。イジるの楽しい」
「ホント性格悪いな!」
ガン! と音を立てて、ハルバードを振り下ろした。刃先が地面に突き刺さっている。
「バカにしやがって」
プイと視線を逸らし、むくれるレイト。
男はレイトに歩み寄り、手が届きそうな距離で足を止めた。レイトが盗み見るように男を見上げようとした時、頭の上に何かが乗る重みを感じた。
男の手が、レイトの頭を撫で回す。
「ごめん、僕が大人げなかった。でも、一緒にいて楽しいのは本当だよ」
レイトの髪が、ぐしゃぐしゃになっていく。
「つい調子に乗っちゃったんだ。ほら、僕って他に友達いないから」
男は撫でるのをやめた。レイトの頭から手を離すと、ずっと握りしめていた反対側の手を、レイトの胸の前に差し出す。
「手、出して」
レイトは差し出された手の真下に、両手で受け皿を作った。両手の中に、光沢のある物がポトリと落ちる。
「……指輪?」
黒を基調とした、幅のある指輪。サイドにシルバーの細いラインが入っている。
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