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気づけば、天窓から小屋の中に差し込む月光が、照らす角度を変えていた。
ディアンは地面の月明かりに視線を置きながら、レイトが語る経緯を聴いている。
悪魔に村を襲われた日、レイトは両親を奪われ、平穏な日常と仲間を失った。残ったのは部外者の友人1人と、悪魔が落とした指輪。
ここまでの話で、魂を集めている動機はまだ見えてこない。
思い耽るディアンに、左手を差し出すレイト。人差し指を少し持ち上げて、着けているトリニティリングを見せた。
「これさ。失くしちゃいけないと思って、はめたんだけど……外れなくなっちゃって」
悪魔を探す唯一の手掛かり。失くさないようにする心意気は良いが、得体の知れない物を身につけるのはどうかと思う。
「バカなの? もっと警戒しなさいよ」
「あー……同じこと言われた」
レイトが漏らした渇いた笑いは、すぐに途切れた。真顔になって手を引っ込めると、その後の成り行きを語る。
結局、それから1週間ほど経っても悪魔は村に来なかったので、男と旅支度を始めた。それまで自宅へ招き入れてこなかった男が初めて部屋に入れてくれて、3日かけて準備を整えた。
その最中で、手がかりの指輪は絶対に失くさないように、と男に念押しされた。身につけるのが一番失くさない、という思いで指に装着した所、軽率な行動を注意された挙句「すぐ着けたがるじゃん……幼児なの?」とバカにされた。
そして、いよいよ翌朝に出発しよう、となった日の夜。男の家の一室で2人並んで布団で横になり、これから就寝に入ろうとしていた時だった。
突然、女の声が聞こえた。両親を連れ去った、あの悪魔の声だとすぐにわかった。頭の中に直接響くその声は、耳を塞いで遮れるものではなかった。
隣で寝ている男は何事も無いように目を瞑っていたので、おそらく自分にしか聞こえなかったのだろう。
強制的に聞こえる声が、淡々と、一方的に話を始めた。
――貴方には人間の魂を集めてもらいます。そのために人間を殺してください。人差し指につけている指輪で、魂を集めることが出来ます。貴方が殺した村人の魂は、既にその指輪で回収済みです。
突拍子もない指示。それと、突きつけられる現実。
――もちろん、タダでとは言いません。こちらの要望を満たしてくだされば、ご両親を元通りにしてお返ししましょう。殺す人間は貴方に選ばせて差し上げますし、そのための協力もします。
リスクを伴う交換条件。それでも、会いたい想いが募る。
――あと、これは私の気遣いですが……連れの男とは離れた方がよろしいかと。一緒にいると、大事なお友達が殺人の共犯になってしまいますよ。貴方にとって嫌な事じゃないですか?
友人の存在を把握されている。監視下に置かれているらしい。
――それでは、今日はこれで。またお声がけしますね。
最後に「フフフフ」と上ずった笑いを残し、女の声は聞こえなくなった。
震えた体を落ち着かせるまで、しばらく横になっていた。同時に、言われた事を頭の中で考えていたが、呼吸が楽になる頃には決心がついていた。
夜のうちに、隣で寝ている友人に黙って部屋を後にした。
それ以降、前触れ無く聞こえてくる女悪魔の声を頼りに、旅を続けている。
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