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「旅に出たのは良いんだけどさ、1人でいると色々考えちゃうし、日に日にしんどくなってきて」
感情が死んでいるかのように、単調に話を続けるレイト。
「そんなこと思ってたからかな。この森にドラゴンがいるって話を悪魔から聞いた。それで昨日、ディアンに助けを求めに行ったってわけ」
「そうだったの」
ディアンは神妙な面持ちで相槌を打つ。
「でもアンタ、とてもじゃないけど助けを求める態度じゃ無かったわよ。冷やかしか何かかと思った」
「マジか……」
レイトは心底意外そうに呟いた。
昨日は出会ってすぐに、レイトがただのバカだと判断できたので、あの態度がわざとじゃなかったのは分かる。というか、わざとだったらあの場で丸呑みにしていた。
それはともかく、以前ビルから聞いた、レイトの左目の話と辻褄が合う。
レイトの左手に目をやると、人差し指の付け根のあたりが月明かりで反射した。
あの指輪。ビル曰く、左目に魂を集めるための媒介の道具という事だが、レイトは指輪に直接集めていると思っている。
これは指示を出している女悪魔の「指輪で魂を集めることが出来る」という言い方のせいだろう。嘘はついてないが、勘違いを生む言い回し。きっとわざとやっている。
それと、左目を通して一時的にレイトの視界を覗けるという話もしていたが、女悪魔が「レイトが男と一緒にいる」と言い当てたのがそれに該当しそうだ。
レイトが悪魔と左目を交換しているという説がかなり濃厚となった。
しかし、今聞いた経緯の中ではそんな事をしている様子がない……ような気がする。そもそもどういう手順を踏んでそれを行うのかも知らないので、ビルに聞いてみるか。クソ、あの小癪なにやけ面を頼らねばならないとは。
ところで、その女悪魔がどうして自分の事を知っているのか謎である。レイトについて来たのは自分の意思だが、悪魔の手のひらで踊らされた感じがして、複雑な気分だ。
ただ、おまけがついて来たのはソイツにとって想定外だろう。
考えに没頭していると、隣から「なあ」と声をかけられた。返事をする代わりに、レイトの横顔を見る。今はもう俯いておらず、顔を少し上げて数メートル先の地面を見ていた。
「一応、全部話したつもりだけど」
気力の無い目をしている。
村で暮らしていた頃は、どういう目をする子だったのだろう。
一先ず今日の所は、こちらの用件を終わらせて、彼をこの話から解放してあげたい。
ディアンは小さく手を挙げた。
「質問よろしいかしら?」
「よろしいです」
「どういう基準で……狙う人間を選んでるの?」
一応言葉を選びながら、レイトの顔色をうかがった。特に表情は変えず、頭を掻いている。
「犯罪者とか悪人とか、かな。そういうヤツなら居なくなっても誰も気にしないと思ってたんだけど……まあ、なんつーか………………あ、そう言えば」
途中で言葉を濁して何かを思い出すと、左手の人差し指を右手で包んだ。
「たまたま気づいたんだけど、こうやって指輪を握ったまま目ぇ閉じると、数字が見える」
「数字?」
「ん。なんか、魂を集めると数字が減ってく」
「それってどんな風に?」
「1人の魂で1減る」
集めているのだから加算方式の方がしっくりくるものだが。
まあ、こんな事を考えてもしょうがない。
「ちなみに今はいくつ?」
「ああ、今は……」
レイトは指輪を強く握りながら、目を閉じる。瞼の裏に浮かび上がる数字をディアンに告げた。
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