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「あっ、てめえ! 裏切り者!」
同志だと思っていたのに、と言わんばかりに叫ぶパルグル。
ビルはその一瞬の隙をつき、パルグルに詰め寄った。通りすがりにラス1の生首を拾い、小脇に抱える。パルグルの目前に近づくと、胸倉を掴んで更に顔を引き寄せた。
「おれさあ。すごいの思いついちゃったんだけど」
口角を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべるビル。パルグルの瞼がピクリと動く。
ビルはニヤニヤと笑いながら、ゆっくりと舌なめずりした。
「グールのパルパル、パルクールでグルグル」
「あ? 死ねよ」
パルグルは呆れた表情で「何がすげぇんだよ」と付け加えながら、ビルの手を引きはがした。
ビルは徐々に表情を歪ませ、悔しそうに下唇を噛んだ。哀愁を帯びた目でパルグルを見つめている。
パルグルはその視線から逃れるように、ビルの脇へ視線を落とした。
「わかった、降参。オレの負け」
愛用していた生首を取り上げられた以上、もう成す術はない。
もう一度ビルと目を合わせてみるが、彼の目の色は変わっていなかった。
ビルはくるりと踵を返し、トテトテと走り出した。生首ピラミッドの前で止まり、小脇に抱えていた最後の1つを頂上に乗せる。完成したピラミッドから手が離れると、地面に描かれていた魔法陣が一瞬だけ強い光を放った。その光はピラミッドを包み隠した後すぐに消えたが、ピラミッドの姿も無くなっていた。
ビルはそれを確認するように頷くと、近くにいたアヴィのもとへ駆け寄り、胸に飛び込んだ。アヴィは「おふっ」と小さく呻きながらもビルを受け止める。
「ア"っくん! パルパルが……バルバルがじねっでいっだぁ……!」
ビルはアヴィの胸に顔を埋め、くぐもった声で何か話している。アヴィは頷きながら話を聞き、ビルの背中を撫でた。
通りすがりに何かやってたな……?
パルグルは顔を顰めるようにして、魔法陣に近づいた。
円状の模様が、今も微弱な光を帯びている。その上に手をかざしてみるが、先ほどまで置いてあったピラミッドは本当に消えているようだ。
魔法陣には赤黒い液体が染み付いている。ピラミッドを形成していたものから垂れ流れたのだろう。
魔法陣に興味をそそられて観察していると、後ろからアヴィの声が聞こえてきた。
「パルパル。話があります」
「お前までその呼び方すんな」
パルグルは視線を変えず、不満を口にした。
「おや、ビルはいいんですか?」
「ソイツに関しては諦めてんだよ」
「では私のことも諦めてください」
「オレがフラれてるみたいな言い方ヤメロ」
ふざけた会話のせいで観察に集中できなくなり、立ち上がりながらアヴィの方を向く。
アヴィはなぜか、やれやれといった感じでため息を吐いていた。
「まあ、とにかく。こっちへ来てビルに謝りなさい」
「うるせえな、母ちゃんかテメェは」
「紳士です」
「マジでうるせえな」
パルグルは目を細くして、面倒くさそうにアヴィを見た。
「オレが悪いみたいになってるけど、ビルにも問題あるからな? ソイツ、オレに向かって "クルクルパーのおたんこなす" って言いやがったんだぞ?」
「私が聞いたのと、ずいぶん違いますね……?」
直後、ビルが「ブフッ」と吹き出した。
「クッソ。ビル、テメェ。いつか絶対後悔させてやる」
「違うよパルパル……被害妄想だよ……」
ビルはへなへなと地面に蹲り、どこかで見覚えのあるゴメン寝のポーズになった。体を震わせながら時々「ふふっ」と笑いを堪える声が漏れている。
「ごめんね……おれが悪かっ……ふふっ、ふふふふふふっ」
「一発殴っていいか?」
パルグルはしゃがんで、ビルの後頭部にゲンコツを落とした。
様子を見に来ていたディアンは「ずいぶん仲良くなったな」と思いながら、その光景を眺めていた。
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