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「話って何?」
ディアンは訝しむ目でビルを見た。
「そういえば今日だったなーって」
ビルの横顔を見据えていると、彼の顔がゆっくりとこちらを向いた。口元の笑みを深くして、ディアンに告げる。
「マスターがレイくんを殺そうとする日」
ディアンは度肝を抜かれ、思考が止まった。視界にビルを映したまま、呆然とする。
黙ったまま反応を示さないディアンに、ビルは首を傾げた。ディアンをジッと見つめながら、両手を筒形にして自身の口元に添える。
「マスターが~、レイくんを――」
「聞こえてるわよ!」
反復して伝えようとするビルを、慌てて遮るディアン。言葉を発してから、自分が大声を出していたことに気がつく。
「ちょっと、場所考えなさいよ」
声量を落としながら注意するが、ビルはニコニコしたまま表情を変えなかった。
「ここにはおれたちしかいないよ?」
ディアンは、余裕の笑みを浮かべるビルを睨んでから、食堂全体を見渡した。隣のテーブルにアヴィとパルグルがいる以外に、人の気配は無い。
しかし、ユキが戻ってくるタイミングが心配だ。
「ユキちゃんに聞かれたらまずいわ。場所を変えましょう」
腰を上げながらテーブルに手をついた時、二の腕を思い切り掴まれた。
「あっちの2人に引き止めてもらうように頼んどいた」
"あっちの2人" と言うのは無論、隣のテーブルでだらけている魔物2人のこと。彼らがビルの言うことを素直に聞くとは……少し驚きだ。
ディアンは自分の二の腕の、ビルに掴まれた部分がじわじわと痛みを帯びていくのを感じていた。握力が強い。
「……随分と準備がいいのね」
浮かせた腰を下ろして座り直すと、ディアンの腕からビルの手が離れた。
「うん、話の邪魔されたくないし」
口角が上がっているのに、いつもより声のトーンが低い。流し目でこちらを見る悪魔から悪巧みの臭いがする。
ディアンは左手で眉間を押さえ、テーブルに肘をついた。
「で、どうしてそんなこと知ってるの?」
「それは~……そう、あれだよ」
代名詞しか使われてないので何も伝わらない。
どう聞き返そうか考えていたら、左側――ビルがいる方から、もぞもぞと動く気配を感じた。様子を見ようと、薄く目を開く。視界の端に見えたビルが真横に近づいて……訂正、密着してきた。
ビルはディアンの隣にピッタリとくっつき、耳元に口を近づける。
「レイくんの事、しばらく前から観察してたからね」
弾みを含んだ声で囁き、ウフフと笑った。
はあああああああ。
近っっっけーのよ、コイツ。声量に配慮しているのだろうが、ここまでする必要ないだろう。
ディアンは眉間に添えていた左手を、ビルの顔の近くに移動させ、指を揃えて伸ばした。
「……この手、何?」
「アンタの顔を遮ってるのよ」
「酷い! 真剣な話してるのに!」
今度は逆に騒がれ、顔をしかめるディアン。
聴覚が忙しい。
「うるさいわね。早く続けてちょうだい」
ビルの顔は視界から除外済みだが、彼から視線を逸らすように顔を背けた。
「……………………一昨日だったかな」
何か言いたげな間を感じたが、こちらの要望通り話し始めた。彼自身も、別の話で時間を取ることは不本意だったのだろう。
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