悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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 一昨日の夜、レイトが就寝した後のこと。観察対象の寝顔には見飽きていたので、ビルは身を(ひそ)めながら街を散策していた。  街の通りをプラプラと歩いて目立つつもりはないので、通る場所は屋根の上。ほとんどの建物が切妻(きりづま)屋根なので、月明かりの陰になる側に隠れながら、静かに歩く。隣の建物の屋根へ飛び移るときは、物音を立てないよう翼を使って浮遊した。  近場で一番高い屋根で立ち止まり、てっぺんから顔を出して街を展望する。  静寂に包まれたこの景色も、見飽きてきた。人がうごめいていれば多少の暇つぶしになるが、この時間は多くの人が寝静まる。場所を変えれば、この時間帯にこそ盛り上がっている人たちがいるが、そちらを覗く趣味は無い。  そういえば、街の出入り口となっている門に行けば、そこを守っている人たちがいる。姿を隠しながら彼らにちょっかいを出してみようか。  次の遊びが決まり、屋根を伝って門の方へ向かうことにした。  軽やかな足取りでしばらく移動していると、暗がりの裏路地で何かが動く気配を察知した。足を止めて視線を落とし、動きの正体を探る。全身を隠すように、フード付きのローブを身にまとい、足早に通る人影が見えた。  あっちの方が面白そうDA☆  行く先を変え、ローブの人を追うことにした。そして、跡をつけていくうちに、自分の直観が当たっていたと確信する。 「――ネタバレすると、その人がマスターなんだけど」  回想を交えて説明していたビルが、「ネタバレ、気にする派だったらごめんね」と申し訳なさそうに眉尻を下げた。  こんな話でネタバレとかどうでもいい。さっさと話さんかい。  ディアンは冷めた目で視線を送ったが、ビルは気にしない様子でウフフと笑っている。 「抜け道を使って街の外に出た後は、あの森に入って……道外れの小屋に向かって~、そこでマスターと、マスターに()りついてる悪魔が話し合ってたんだ~」 「……は?」  待て待て待て。  抜け道? 道外れの小屋? ……マスターに憑りついた悪魔?  新しい情報を立て続けに流し込むんじゃない。 「ていうか、また悪魔? アンタの親戚、蔓延(はびこ)りすぎじゃない?」 「親戚じゃないよぉ! あんな低俗なヤツと一緒にしないで!」  ビルの声に反応して、パルグルとアヴィ、そして2人の話相手をしていたユキが一斉にこちらを見た。 「ちょっと、声(おさ)えてちょうだい」  ディアンが(なだ)めるが、ビルは眉間にしわを寄せ、口を尖らせている。 「ディーくん、ホント無神経。一回くらいビンタしても良いよね?」  小声で話すと、不機嫌な表情でディアンを横目に見た。  時々、ビルの気に障るポイントがわからない。どこが気に入らなかったのか知っておきたいところだが、今は話を脱線させたくない。 「悪かったわよ。後でやらせてあげるから」 「うひょっ。やった~」  ビルは満足した様子で頬を上げると、ディアンに顔を向けた。 「マスターとその悪魔が、その小屋にレイくんをおびき寄せて殺そうって話をしてたの。その決行日が今日ってワケ」  ビルの感情の切り替えが早いのは気になったが、謝罪とビンタ1つで済むならまあ、情報料としては安いだろう。彼のことは9割くらい厄介者だと思っていたので、こうして重要な情報をくれるのはありがたい。しかし気になる。
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