悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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「アンタ。その話、本当に今まで忘れてたの?」  ディアンが怪訝な顔で尋ねると、ビルはおもむろに目を細めた。 「そうだよぉ。ディーくんがおれを乱暴に扱うから記憶が飛び飛びになっちゃったのかも」  そう言う割には、困った表情でも、嘆くような表情でもない。楽しそうに頬を上げ、ディアンをまっすぐ見ていた。  このふざけた態度、まるで不快感を(あお)っているようだ。  ディアンは無表情を作り、横目でビルを見た。 「アンタが見下してる悪魔なら、レイトが手こずる相手でもないんじゃない?」  ディアンの見解を聞くと、ビルは首を(かし)げた。 「んん~? それはどうかなあ」  ニヤリと口を三日月型に開き、ニヒルな笑みを浮かべている。 「相手は2人だけじゃないんですよ、奥さん」 「……他に仲間がいるってこと?」 「仲間というか、操り人形だね」  ビルは「どこから話そうかな」と、口元の笑みを残したまま悩ましい表情を見せた。 「その悪魔なんだけど、人間に憑りつく代わりに、宿主が求める能力を与えるの。マスターが手に入れた能力は……そう、ネクロマンサーの力なのDA☆」  ビルは調子づき、両手でディアンを指さした。今もなお、隣にピッタリとくっついているので、ここでその動きをされるとかなり迷惑だ。 「操ってる死体は、マスターに殺された人たち……レイくんが話してた行方不明事件の被害者だよ。生前の身体能力がそのまま引き継がれるから、殺す相手をちゃんと選んでるんだろうね」  ビルは話の途中から、ディアンに向けている両手の指を交互に突き、腕をツンツンしている。  ディアンは腕の不快感を抱きながらも、それを無視して思いふけっていた。  事件の被害者が "身体つきの良い人間" だったのは、戦力を見込んでということかもしれない。大方、期待外れだった個体を "食堂行き" にした、と言ったところか。レイトが狙われている理由は、人間にしては珍しく、さくっと魔獣を狩れるからだろう。  それにしても実に不快だ。事件の真相を知っていたのなら、レイトが計画云々の話を持ち出した時に、この事を思い出さなかったのが違和感でしかない。  ディアンに無視され続けて飽きたのか、ビルはツンツンするのを止めた。 「そんなワケで今しがた狙われ中のレイくんですが、彼には迷いがあります。わかるかね? ディーくん」  ビルは唐突に、先生のような口調でディアンに尋ねた。  レイトの迷い。そうかもしれないと感づいていたが、ビルが断言したことでそれが確信となった。  レイトの言動は、とてもじゃないが「人間を殺したい」という態度に見えない。そうせざるを得ない理由を抱えているのだとしたら、彼にとって不本意なことを強いられている可能性がある。  口ではああ言っていたが、今も葛藤に苦しんでいるかも知れない。 「……アンタもわかってたのね」 「そりゃあね。悪魔の顧客は(おも)にニンゲンサマですから」  ビルは両手を腰に当てて胸を張り、「フフン」と鼻を鳴らして誇らしげな表情をした。
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