悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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「死体たちはマスターの能力で死後変化が起きないようになってるから、見た目は生きた人間そのもの。まさか死体が操られてるなんてパッと見じゃわからないだろうし、無関係の人間がたくさん襲ってきたら手こずっちゃうかもね」 「たくさんって、どのくらい?」 「ん~。おれが見たときは、ざっと20体だったかな?」  思ったより少なかったが、まあまあな数が殺されている。  応戦していれば遅かれ早かれ、相手が死体だと気づくかも知れない。そしたら、レイトなら20体くらい難なく()ぎ払えるのでは……いや、どうだろう。  姿形(すがたかたち)はあくまで人間だ。彼の感性はまだよく分かっていないが、 "人間の姿をした何か" が相手でも躊躇(ためら)いが残るかもしれない。  レイトが逃げて戻って来るのを祈りたいが、こちらが駆け付けた方が確実だ。  今後の行動を考えている最中、隣から何やらキラキラしたものが飛んできた。隣をチラと見やると、ビルが "心ウキウキワクワク~" な顔で目を輝かせている。キラキラは彼の熱い視線から放たれていた。 「ねえねえ、おれ偉い? ちゃんと情報提供して、偉い?」  ディアンの眉間がピクリと動いた。  コイツが "ついさっき思い出した" というのがあまりにも信用できないので、素直に「偉い」と褒めてやれない。しかし、コイツが話さなければ、何も知らずにレイトの身に危険が及んでいたことだろう。 「まあ……そうね、助かったわ」  レイトを買いかぶって1人で送り出してしまったのは悔やまれるが、それは今考えることじゃない。  ディアンはテーブルに手をついて立ち上がった。 「その小屋の場所に案内してちょうだい」  そう言ってビルに視線を落とすと、彼は目をキラキラさせるのを止め、目をパチクリとした。 「何よ? まさか忘れたの?」 「覚えてるよ」 「じゃあ――」  催促の言葉をかけようとしたが、途中で止まった。  ビルは口を薄く開き、口角を異様に上げて不気味な笑みを浮かべている。 「ハ~イ、ここからは有料情報でぇす」  目尻を下げて、言葉を失っているディアンの目を見据える。 「ディーくん、調子よすぎ。おれが何でもかんでも教えると思った?」  してやったりという顔つきで、目の前の悪魔は両手で頬杖をついていた。  腹の内側から何かが込み上げてくる。形を成さないそれは、ただ吐き出すだけでは治まらないモノ。それでもいくらか吐き出せば多少の気休めになるだろうが、このクソ悪魔の前でそんな醜態を(さら)すわけにはいかない。  ディアンは右手の中にを持っていた。吐き出す代わりに、それを力強く握りしめる。ジャリっと音が聞こえたところで、自分の握力でこれを壊してしまうかもしれない、と力を緩めた。  ディアンは一呼吸置き、右手に握りしめたものを、おもむろにビルへ突き出した。 「有料って言っても、欲しいのはお金じゃないよ。今、レイくんのお金出そうとしたでしょ」  ビルに指摘され、ディアンは差し出そうとした巾着袋を引っ込めた。 「何が望み?」  鋭い目つきで尋ねると、ビルは「うふふ」と笑い声を漏らした。 「その言葉を待ってました~!」  両手両足を上げ、全身で喜びを表現するビル。立ち上がりながら軽やかに跳び、腰かけの上に足をついて着地した。(かが)んだ姿勢をとり、互いの鼻が付きそうなくらいに顔を近づけ、ディアンを見下ろす。 「おれが欲しいのは――」  ビルの声に耳を傾けながら、ディアンは間近に迫る悪魔の目を睨んでいた。
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