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ディアンとビルの急接近型にらめっこを、ユキは離れた位置で立ったまま傍観していた。先ほどディアンの髪を結ったのだが、本人に髪型を見てもらおうと鏡を取りに行って戻って来た時、「あの2人は大事な話をしてる」と引き留められたのだ。
そんな訳で彼らの話が終わるまで待機することにしたのだが、引き留めた2人が話し相手になってくれているので、暇を持て余さずに済んでいる。
「あの……あちらのお2人って、仲良いんですか?」
ユキは隣のテーブル席を見たまま、アヴィとパルグルに尋ねた。2人は彼女の視線の先を追い、見つめ合っているディアンとビルへ目を向ける。
「ふむ、言われてみればそうなんでしょうかね」
「お前、本気で言ってんのか? テキトー過ぎてビックリしたわ」
パルグルは、顎に手をやる隣のアホを一瞥した後、遠くの2人をもう一度見た。
「あれはビルが……椅子の上に立ってるヤツが距離感おかしいだけ」
「ああ……納得です」
ユキも身をもって体験していたので、すんなり理解した。改めてディアンとビルの様子をうかがう。ビルはニヤリと口角を上げているが、鋭い目力で威圧的な視線をディアンに浴びせていた。無表情に見えるディアンも、目元が力んでいる。
深刻な雰囲気。彼らの話が終わったとしても、近寄る勇気はない。
「私、そろそろ戻りますね。お話、楽しかったです」
ユキは相手をしてくれた2人に、にっこりと微笑んだ。
「鏡はここに置いとくので、自由に使ってください」
鏡面を下にして鏡をテーブルに置くと、「それじゃあ」と笑顔を浮かべながら2人に会釈し、食堂を後にした。
パルグルはユキの後ろ姿を見ながら、片手を上げて手を振る。
「おう、ちゃんと体鍛えとけよー?」
「突飛な挨拶ですね。しかしそんなものでは女性に響きません。0点です」
「そーゆーつもりゼロだったけど、なんか腹立つな」
パルグルは眉をひそめ、アヴィを横目で見る。アヴィはユキが置いていった鏡を持ち、鏡面と向かい合ってジーっと眺めていた。パルグルはアヴィの隣に近づき、横から鏡の中を覗く。
「へー、マジで写らねーんだな」
鏡にはパルグルの姿だけが写っており、真横にいるはずのヴァンパイアの姿は見えなかった。
「ええ。ですが、とっくに慣れてますよ。今では感覚だけで身だしなみを整えられますから」
アヴィは片方の口角を上げ、「フッ」とドヤ顔を見せる。パルグルはその顔が気に入らなかった。
「ハッ、よく言うぜ。鼻の穴から鼻クソ見えてるぞ」
パルグルのその一言で、アヴィの目が極限まで見開かれた。
「なんですって!? どこですか! 取ってください!」
アヴィは血眼になり、両手でパルグルの左手を勢いよく掴んだ。
「痛ってえ! テメエ、爪が食い込んで――」
痛がるパルグルを無視し、アヴィは掴んだ手を引き寄せ始めた。パルグルの指先が、アヴィの鼻に近づいていく。
不穏な予感。指先が引き寄せられていくのに比例して、パルグルの顔が青ざめる。
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