悪魔は憑けても憑かれないよう気をつけてね

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「おい。まさか鼻に指つっこむ気じゃねーだろうな?」 「穴から見えてるのでしょう? つっこみます!」 「マジかコイツ!」  パルグルは掴まれた左手を自分の方へ引き、アヴィの力に抵抗する。 「嘘だよ、嘘! ついて()ぇから! 手ぇ離せ!」 「信用できません! 私を鼻クソの呪縛(じゅばく)から解放しなさい!」 「だから、ついてねーって! 鼻ん中舐められるくらい綺麗だわ!」 「なら(さわ)れるでしょう! カモン!」 「お前クソめんどくせーな!!!」  両手で掴んでいるパルグルの手を、徐々に自分の鼻へ引き寄せるアヴィ。パルグルは汚染の危機に直面している左手を救出すべく、空いた右手でアヴィの手を抑えて引き留める。  両者は負けず劣らず、ちょうど2人の中間で手が止まっていた。 「騒がしいわよ、アンタたち」  少し前まで隣のテーブル席にいたディアンが、すぐ傍で2人の攻防を眺めている。アヴィはパルグルの手を確保したまま、ディアンを見上げた。 「でぃ、ディーさん、私の鼻から何か出てます?」 「……さあ? 鼻息くらいは出てるんじゃない?」 「そうですか、安心しました」  アヴィは安堵のため息を吐きながら手の力を抜き、パルグルの手を解放した。 「だから言ったじゃねーか。旦那、助かったぜ」  パルグルはアヴィに一声かけてから、ディアンに礼を述べた。そんな彼の態度に、アヴィは眉間にしわを寄せて顔をしかめる。 「元はと言えば、貴方が鼻クソとか言うからですよ。今後一切、このような事が無いように」 「んだよ、鼻クソごときでそんなに騒ぐことねーだろ」 「身だしなみには気を付けてるんです。鼻クソぶら下げたまま外出なんてできません」 「ほ~? 一生外出できないように毎日鼻クソつけてやろうか?」 「ふざけるな! それなら貴様にもつけてやりましょうか!?」  (にら)み合いながら鼻クソ口論をするアヴィとパルグル。ディアンはそんな2人を呆れた目で見ていた。 「取り込み中悪いんだけど、鼻クソの話は終わりにしてくれる? 急を要する問題が起きてるのよ」  ディアンがそう言うと、先にパルグルがアヴィから目を逸らし、ディアンの後方にいるビルへ視線を向けた。 「話がついたってことか?」  …………は?  想定外のパルグルの反応に、呆然とするディアン。ゆっくり背後を振り返ると、そこにはにっこりと笑うビルがいた。 「そだよー。早く行こ?」 「っしゃ来た! 久々に腹いっぱい喰える!」  パルグルは嬉々として歩き出し、宿の正面玄関へ向かう。アヴィも彼に続くが、ビルの横を通り過ぎる前に足を止めた。 「女性もいると言うのは本当なんでしょうね?」 「いるよ〜。アっくんの好みか、わからないけど」 「ふむ、いなかったとしても大目に見ましょう」  ビルに微笑んだ後、アヴィは玄関に向かって歩き出した。  その一部始終を見届けた後、ディアンはやっと口を開いた。 「あの2人に何か言ったの?」  玄関に向かって歩いていたビルが、ピタッと足を止めた。上半身だけでクルリと振り返り、ディアンと目を合わせる。 「もしかしたら血肉(けつにく)(むさぼ)れるかも〜って話をしたよ。それと……」  ビルはニタァと笑い、口を薄く開いた。 「おれがディーくんを説得できるようにフォローしてってお願いした」  あんまり手こずらなかったけど、と付け足すと、ビルは進行方向を向いてトテトテと小走りをし、食堂を後にする。  ディアンはその後ろ姿を思いっきり睨んでから、彼らの跡を追った。
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