51人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい。まさか鼻に指つっこむ気じゃねーだろうな?」
「穴から見えてるのでしょう? つっこみます!」
「マジかコイツ!」
パルグルは掴まれた左手を自分の方へ引き、アヴィの力に抵抗する。
「嘘だよ、嘘! ついて無ぇから! 手ぇ離せ!」
「信用できません! 私を鼻クソの呪縛から解放しなさい!」
「だから、ついてねーって! 鼻ん中舐められるくらい綺麗だわ!」
「なら触れるでしょう! カモン!」
「お前クソめんどくせーな!!!」
両手で掴んでいるパルグルの手を、徐々に自分の鼻へ引き寄せるアヴィ。パルグルは汚染の危機に直面している左手を救出すべく、空いた右手でアヴィの手を抑えて引き留める。
両者は負けず劣らず、ちょうど2人の中間で手が止まっていた。
「騒がしいわよ、アンタたち」
少し前まで隣のテーブル席にいたディアンが、すぐ傍で2人の攻防を眺めている。アヴィはパルグルの手を確保したまま、ディアンを見上げた。
「でぃ、ディーさん、私の鼻から何か出てます?」
「……さあ? 鼻息くらいは出てるんじゃない?」
「そうですか、安心しました」
アヴィは安堵のため息を吐きながら手の力を抜き、パルグルの手を解放した。
「だから言ったじゃねーか。旦那、助かったぜ」
パルグルはアヴィに一声かけてから、ディアンに礼を述べた。そんな彼の態度に、アヴィは眉間にしわを寄せて顔をしかめる。
「元はと言えば、貴方が鼻クソとか言うからですよ。今後一切、このような事が無いように」
「んだよ、鼻クソごときでそんなに騒ぐことねーだろ」
「身だしなみには気を付けてるんです。鼻クソぶら下げたまま外出なんてできません」
「ほ~? 一生外出できないように毎日鼻クソつけてやろうか?」
「ふざけるな! それなら貴様にもつけてやりましょうか!?」
睨み合いながら鼻クソ口論をするアヴィとパルグル。ディアンはそんな2人を呆れた目で見ていた。
「取り込み中悪いんだけど、鼻クソの話は終わりにしてくれる? 急を要する問題が起きてるのよ」
ディアンがそう言うと、先にパルグルがアヴィから目を逸らし、ディアンの後方にいるビルへ視線を向けた。
「話がついたってことか?」
…………は?
想定外のパルグルの反応に、呆然とするディアン。ゆっくり背後を振り返ると、そこにはにっこりと笑うビルがいた。
「そだよー。早く行こ?」
「っしゃ来た! 久々に腹いっぱい喰える!」
パルグルは嬉々として歩き出し、宿の正面玄関へ向かう。アヴィも彼に続くが、ビルの横を通り過ぎる前に足を止めた。
「女性もいると言うのは本当なんでしょうね?」
「いるよ〜。アっくんの好みか、わからないけど」
「ふむ、いなかったとしても大目に見ましょう」
ビルに微笑んだ後、アヴィは玄関に向かって歩き出した。
その一部始終を見届けた後、ディアンはやっと口を開いた。
「あの2人に何か言ったの?」
玄関に向かって歩いていたビルが、ピタッと足を止めた。上半身だけでクルリと振り返り、ディアンと目を合わせる。
「もしかしたら血肉を貪れるかも〜って話をしたよ。それと……」
ビルはニタァと笑い、口を薄く開いた。
「おれがディーくんを説得できるようにフォローしてってお願いした」
あんまり手こずらなかったけど、と付け足すと、ビルは進行方向を向いてトテトテと小走りをし、食堂を後にする。
ディアンはその後ろ姿を思いっきり睨んでから、彼らの跡を追った。
最初のコメントを投稿しよう!