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なんとしても、俺はこの野望を叶えるのだ。 人間と魔物が住まう世界。 暗がりの森の中、人間の青年―レイト―は大木に身を隠し、遠くにいる対象の様子を伺っていた。 半径30メートルほどひらけている土地のど真ん中で、漆黒に包まれた大きな身体と翼を伏せ、頭と尾がくっつくように丸まっている。 探し求めていたドラゴンだと、すぐにわかった。 こんなことをしているのは自身の野望のためであり、それを叶えるためには強力な助っ人が必要だった。だからこうして、"神聖な土地" に住み着いているというドラゴンに会いに来たというわけだ。 なんでも強大な力を持つドラゴンであるらしく、魔物の群れを一瞬で消し炭にしてしまうほどだと言う。魔物は基本、人間よりも身体能力に優れているから、あのドラゴンが我々人間より強いというのは間違いないだろう。 レイトは一度、身を隠している大木に背もたれ、小さくため息をついた。それから肺いっぱいに空気を吸い込みゆっくりと息をはきだす。 よし、と心の中で意気込み、遠くの黒い塊に向かって歩き出した。 平々凡々と生きてきた人間であれば、ドラゴンに近づこうなんて絶対にしないだろう。しかしレイトは、生まれ故郷の村で、魔物を追い払う役を10年ほどこなしてきた。相手が臨戦態勢をとってきたとしても、なんとか退避するくらいの自身はある。 それに、どうしても成し遂げたいことがあるのだ。 こんなところで引き下がるわけにはいかない。 はやる気持ちを抑えきれず、ドラゴンのもとまで颯爽と歩み寄った。ドラゴンの頭が見える位置にたどり着く。顔を覗き込むと、目を瞑っているのがわかった。 寝ているのだろう。こんな開けた土地で無防備なことだ。 ……いや、自分が襲われるようなことはない、ということか。 それにしても、ドラゴンをこんなに間近でじっくり観察できる貴重な機会は、なかなかないだろう。 頭には2本の黒いツノ、かろうじて見える前足には黒い爪、どこもかしこも真っ黒。ワンポイントでも色があってもいいのではないか。 しかし、これだけ周りをうろうろしているというのに、ドラゴンは一向に目を覚まさない。 図太いじゃないか。 目覚めさせるところから手こずりそうだ。 レイトは、ふう、とため息をつき、黒く光沢のある鱗にそっと触れた。
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