花かんむり

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 今からどれほど前のことでしょうか。  7つ上の兄もまだ子供と言って良い年頃で、父も母もまだ存命中でございました。あの頃のことを思い出すと、今はもういない家族たちの声が鮮やかに聞こえてくるのが誠に不思議なものです。  私の一家はその年のお正月に越してきて、時期が時期なもので格好の借家もなく、父の知り合いの方のご好意で、なんとか村外れに建っていたお寺の離れ座敷を拝借し、家族身を寄せ合って暮らしておりました。  ご存知でいらっしゃる? そうです、そのお寺のことです。係累の方がいらっしゃらなかったから今ではもうすっかり・・・。  なぜ私たち一家を受け入れてくださったのか。きっと何かしらの事情があったのでしょう。ただ当時の私はそんなことを知ることもなく、お友達と離れ離れになり、飼っていた子犬も親戚の家に引き取られていったのが寂しくて寂しくて仕方がありませんでした。  兄はね、きっと何かしらのことに気づいてはいたのでしょうね。  父や母の後ろ姿を見守るようなそのまなざしはもうほとんど大人になりかけておりました。  兄の最後の子供時代。  これは、その頃のお話でございます。  
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