1 要

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1 要

窓の縁に腰かけ、タバコをくわえる。電気のついていない部屋。 ライターから火を取り吸い込んだ。赤い。 ぼんやりとタバコの先を眺めてから、視線を外に向ける。夜の11時。 灯りの消えた窓や、カーテンの色を浮かび上がらせる窓。 あの窓の中では、きっと色んな人生がリアルタイムで広がっているのだ。 ぼんやり思いながら、視線を室内に戻す。 生活必需品を排除した、ガランとした部屋。かろうじてソファーだけが置いてある。 タバコを口にくわえたまま、窓から移動する。 山盛りの灰皿を持ち上げて、キッチンに向かった。 タバコを消し、シンクに灰皿を置いて蛇口を捻った。 床に投げ捨ててあったパーカーを拾い上げ、そのまま袖を通して玄関に向かう。 靴を履き外に出て、すぐ横の階段を重い足取りで降りていく。 少し歩き、脇道を通り抜けてからビルの隙間を進む。程なくして華やかなネオンが迎えてくれた。辺りを見回し、活気付く夜の街に笑みを浮かべる。 少し歩き、目的の店へと続く階段を登る。ネオンのWelcomeの文字に笑ってしまう。 扉を押し開いたとたん、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。 からかう客の笑い声。耳に痛いほどの高音の笑い声。ドスの効いた低い笑い声。 今夜も、この店には笑い声が溢れていた。 「あらいらっしゃ~い、カウンター来たらあ?」 店のママに、いち早く声をかけられ笑みを浮かべる。 半年くらい前に、客を見送っていたママを見て、フラリと入り込んだ店。 店の名前はオレンジ。カラーなのか、果物なのかは知らない。 ほとんどボックス席だが、横に長い作りで古い電車みたいな感じがした。カウンターは、四人しか座れない。埋まっている二つの椅子をチラリと見て、一番端に腰かけた。 「いつものでいいかしら~」 「うん。チーズ貰える?」 明らかに男の声で話かけるママに、頷いて注文をする。 「いいわよお?チーズは時価だから、高いけどねえ」 いつから時価になったのか。ちょっと笑う。
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