第一章【華舞うキョウト】 嵐山

3/8
170人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 * * * * 「──散乱した金平糖。あちこちに落ちている白い毛」  床には星形の小さな物がいくつも落ちていた。白い毛も落ちており、それには少しだけ赤いものがついている。  声の主が触ったそれは赤黒くて、滑り気があった。乾いいないそれからは微かに血の匂いがし、黒い手袋を汚していく。 「犯人はどうやら散々暴れた挙げ句、逃げ出しましたか……」  垂れてきた髪を耳にかけ、艶気のある声で呟く。  端から見れば白、されど本当は銀。そんな白銀の髪は太陽光を浴びて煌めいていた。  長い睫毛をふっと動かす。すると現れたのは、両目ともに違う色の瞳だった。  左は宵月をそのまま写し取った黄檗色(きはだいろ)で、右は空の青さを置いた天色である朝と夜。対照的な時間帯の色を備えた瞳だった。  年の頃は二十歳前後。  雪を被せたとさえ思えるほどの白き肌は、銀の髪をさらに引き立てていた。  服は黒い上衣(コート)で、髪の色が栄えるほどに対照的だ。  人形めいた見目は妖艶。  男とも女とも見てとれる美しさ、ともすれば、妖怪か何かの類いか……そんな顔立ちの者が目元を緩ませた。 「ここは私の安らぎ場所なのに……」  (わずら)わしい人同士の争いもなければ、耳障りな鉄の塊……車の音もしない。あるのは静けさと、豊満な安らぎだけだった。  この静寂を肌で感じ取りながら、声の主はその場を歩き回っている。歩く度に流れる髪を耳にかけ、周囲を見渡した。  ガラス張りの温室で、天井は高い位置にあって円形だ。  地面は赤煉瓦。室内の中央には大きな机が置かれていた。  その机を隠さんとするのは数多の植物だ。大小様々なそれらには青々とした葉がつき、時おり音をたてて揺れている。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!