季節を越えて

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繁華街をふらふら歩き、タクシーを拾いアパートに戻った。 スーツを脱ぎ捨て、体を眺める。痩せこけた貧弱な体。 服を着て、ゴミ袋を取り出し部屋を片付け始める。 数時間かけて部屋を片し、シャワーを浴びて部屋を出た。表通りでタクシーを拾い、義憲のいる店の前で降りた。 無機質なコンクリに足を踏み出し、重厚な扉を開け中に入る。 一つだけ空いていたカウンターの席に座り、硬質な美しさを持つバーテンダーに、黒ビールと義憲を頼んだ。 奥から出てきた義憲に、肉がつくような料理はないかと聞いてみた。 義憲は笑い、奥に引っ込んで行った。 ビールを飲みながら、バーテンダーの手さばきを眺めていたら義憲が出てきた。 「お待たせ」 オムレツを目の前に置かれて、笑った。 「裕也専用の、スペシャルだからな」 オムレツの中には具が沢山入っていて、とても美味しかった。 会計を済ませ、スツールから降りたらバーテンダーに名刺を渡された。 「義憲の。けっこう良い奴だよ」 受け取り、店を出てから名刺を眺めた。 シャドーと義憲の名前と、店の住所と電話番号が印刷されている。裏を見たら、携帯の番号とアドレスが手書きされていた。 タクシーに乗り、持っていたシンプルな携帯に登録する。それから、ワン切りしてメールを送った。 片付いた部屋に戻り、明日は買い出しに行こうと思い窓を開けた。 涼しい風が入り込み、口許に笑みが浮かんだ。 動き出そう。まだ俺はやれる。腐るには早い。 起きたらメールが届いていて、内容を確認してちょっと笑う。 『店に戻るのか?それとも他の場所か?』 最初から知っていたのか。 近いと言えば近い店。ビルのエレベーター横には、写真も出ていたし。 痩せこけたとはいえ、面影はあるのかな。思いながらメールを打った。 『前の店。二週間後に復帰させてもらう』 シャワーを浴びて部屋を出る。 懇意にしていたエステでプランを相談し、美容グッズを買い揃えていたら携帯が震えた。
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