季節を越えて

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プランを決めて店を出て、タクシーを使い義憲のマンションに向かう。 チャイムを押したら、義憲が笑いながら迎えてくれた。 ラグの上に座り、散らかった部屋を眺める。義憲は楽しそうに料理を作っていた。 「二週間うち泊まるか?」 言われて、笑った。 「ただの客なのに、親切すぎるよ」 義憲も笑っていた。 「相性良ければ、付き合うだろ?」 今から試すかと言われ、明るい部屋の中を見回して頷いた。 「じゃあ飯食ったら試そうな」 義憲の作った料理を食べ、美味しいと言えば当然だと返された。また食べ過ぎて、ラグの上に転がる。 転がったまま、食器を洗う義憲をぼんやりと眺めた。 相性が良ければ、本当に付き合うのだろうか。 何を考えているのかわからないが、付き合えたらいいな、なんて思う。 その場限りの関係を繰り返してきたから、誰かと付き合うと言うのは無かった。 パートナーを作り、修羅場を繰り返す奴らばかりを見ていたから、避けていた。 男同士なんて、所詮ずっと一緒にはいられない。 冷めた視線で、周囲を見ていた。諦めた気持ちで、日々その場限りの関係に満足していた。 周囲との違和感。周囲からの拒絶感。 胸にせり上がる熱い塊は、きっとやるせない感情の塊。押し殺し、飼い慣らし、いつかは慣れていくと信じて。 一生そうして、独りで生きていくのだと思っていた。 「義憲」 小さく呟いたら、水を止めた義憲が俺を見た。 「どうした?」 近づく義憲に、手を差し出す。 「いや、相性、良ければいいなって思って」 義憲は笑いながら、差し出した俺の手を握った。 「んじゃ、頑張るかな」 反対の手を差し出す義憲の手を握る。引き起こされ、そのまま抱きしめられた。 顔を寄せて、啄むキスを落としてから義憲は笑った。 「部屋ですんの初めてだよ。ベッド狭くてわりいな」 胸に込み上がる、熱い塊に体を震わせた。それは熱く、身を焦がすように熱い塊で、俺は義憲の体を強く抱きしめた。
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