季節を越えて

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数日を煙草と水で過ごしてから、部屋を出た。 澄んだ秋の夜空を見上げて、ぽつぽつと浮かぶ星を眺める。 タクシーを拾い繁華街で降りて、無機質なコンクリを踏みしめ店に入った。 カウンターの端に座り、メニューを流し見た。今夜は空いている店内。黒ビールとオムレツを頼む。 すぐに出されたビールに手を伸ばしたら、奥からエプロン姿の男が顔を出した。 「いらっしゃい」 曖昧に頷いたら、キノコ平気?と聞いてきた。頷いて、ビールを口にする。 空きっ腹に流し込むビールが、体内を焼くのを感じながらバーテンダーを眺めた。ボーイに、シェーカーを振らせてダメ出しをしている。 しばらくしてまた顔を出したエプロン姿の男が、目の前にオムレツを置いた。 「お待たせ。痩せた?」 曖昧に頷いたら、目を細めてニヤニヤ笑っていた。 「ちゃんと食べな、肌荒れちゃうよ」 言って、奥に引っ込んだ相手にちょっと笑った。久しぶりの食事に、胸が暖かくなる。 美味しい。 いつもと違い、キノコが入っていた。これはこれで、美味しかった。 二杯目のビールを飲んでいたら、店の扉が開いた。ボーイがカウンターから出ていくのを横目に、そろそろ帰ろうと思ったら肩を抱かれた。 振り返れば、休み中に数度抱き合った相手が立っていた。 「久しぶりじゃん、一人?」 曖昧に頷き、バーテンダーに視線を向けた。チェックを頼もうとしたら、相手の腕が腰に回ってきた。 「まだいんだろ?一緒に飲まないか?」 「いや、遠慮しとくよ」 しかし強引に隣に座り、腰から腕を離さない相手にため息を吐いた。思えばこいつはいつも強引だったな。諦めてビールを注文した。 「最近どうしてた?連絡してもお前出ないし」 「そう?タイミング悪かったんだな」 適当に流し、トイレにでも行ってくれないかと願う。 「あ、ピザ頼める?」 バーテンダーに声をかけ、陽気に話しかけてくる相手に時計を見た。 「待ち合わせ?」 「いや、まあちょっと」
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