季節を越えて

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腰に回した腕に力を込め、身を寄せられた。 「な、相手いないなら今夜どう?」 曖昧に笑い、耳に囁く相手を押し返した。 「お前とはもうしないよ」 「なんで?相性良かったじゃん」 そうだったろうか。手荒に扱われた記憶しかない。何もかも、強引だった気がする。 「ホテルにする?俺んちでもいいけど」 勝手に話を進めていく相手に、どうでもよくなりビールを口にした。隙を見て帰ろう。思いながら、ぼんやり話を聞き流していく。 「お待たせ」 奥から顔を出したエプロン姿の男が、ピザを相手の前に置いた。チラリと俺を見てから、バーテンダーに視線を向ける。 「圭、もしかして俺振られたか?」 圭と呼ばれたバーテンダーが、肩を竦めた。 「まだ口説き中みたいだけどお?」 「まぢか。お客さん、そいつ今夜は俺が口説いてんだよ。勘弁してよ」 は?驚いてエプロン姿の男を見上げる。 「お前もはっきり言えよ、今夜は俺が先約だろ?」 ニヤニヤ言われて、苦笑した。 「なに?そうなのか?」 ちょっとムッとした顔で俺を見る相手に、曖昧に頷く。 「まあ、ちょっと」 腰から腕を離した相手に、少し安心した。 「んだよ仕方ねえな。次は相手しろよ」 曖昧に頷いたら、エプロン姿の男の手が俺の頭を撫でた。 「相性良かったら、俺と付き合うって言ったろ?」 ニヤリと笑い、頭から手を離して奥に戻って行った。 「んだよあいつ」 ぶつくさ言いながら、ピザを食べる相手に曖昧に笑う。 閉店まで付き合わされ、店を出たら腕を捕まれた。 「なあ、バックレてこのままホテル行こうぜ」 程よく酔っている相手に、抱き寄せられる。 「いや、先約優先するから」 やんわりと体を押し返そうとしたが、ビクともしなかった。 ため息を吐き相手を見上げたら、顔を寄せられた。俯いてかわしたら、顎を捕まれ上向かされた。再び降りてきた顔に諦めたら、間延びした声がかかった。 「今夜はさあ、義憲の恋人でしょお?」
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