季節を越えて

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無しでもいいと言われたが、それはないだろう。後ろも洗い、最近してなかったな、なんて思いながら浴室を出た。 「裸で出てきてどうすんだよ。服置いといただろ、着てきな」 笑う義憲に驚いた。 「しないの?」 不思議に思い聞いたら、義憲が立ち上がり俺の前まで来た。 「今夜はしねえよ。するならホテルに行くって」 頭をくしゃりと撫でる義憲に、曖昧に頷き浴室に戻った。 シャツを着てから、浴室の鏡を覗いて自分の顔を見る。 白い肌。痩せこけた頬に窪んだ瞳。切りに行ってないから、伸びてだらしのない髪。 する気にもならないか。自嘲して、部屋に戻った。 「裕也~、ビールでいいか?」 缶ビールを受け取り、床に座る。ソファーはないが、フローリングにはラグが敷いてあった。 俺の隣に座り、胡座をかき雑誌を持ち上げ読み始める義憲。たまにビールを飲み、たまに唸っている。 それを眺めつつ、ちびちびとビールを口にした。 何で俺、ここにいるんだろう。 ぼんやりしたまま、時間が過ぎていく。 「ん、寝るか?」 あくびをしたら、義憲が時計を見て立ち上がった。 「俺、ここでいいよ」 ラグに横になったら、義憲は笑って手を差し出してきた。 「そりゃないだろ。狭いけど、一緒に寝ようぜ」 電気を消してからベッドに潜り込み、義憲は俺を抱き締めてきた。 やはりするのかと思って、暗闇の中義憲を見た。 「おやすみ」 頭にキスをして、義憲は目を閉じた。 しばらくジッとしていたら、規則正しい寝息が聞こえてきた。 本当にしないのか。 体から力を抜き、目を閉じた。痩せこけた体に回る腕が暖かい。首の下に回された腕も暖かい。人肌の暖かさに安心して、深い眠りに落ちていく。 久しぶりに味わう、優しい眠りだった。 覚醒していく意識に、うっすらと目を開けた。微かに風が吹いている。窓をぼんやり見て、揺れるカーテンを眺めた。 身を起こし、辺りを見回す。義憲の姿は無く、キッチンの前のイスに座った。
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