季節を越えて

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季節を越えて

コンビニの帰り道、胸に熱い空気が膨れ上がってきた。 爆発しそうに熱くて、肉体を焼きつくそうとするのに、それはある一定の大きさ以上には膨れ上がらない。 代わりに、熱さが増していき、マグマのように胸の中でぐつぐつと煮えたぎっていた。 ぐっと拳を握りしめ、ぐっと歯を噛み締めて堪えた。 目を瞑って立ち止まり、熱い空気が抜けていくのを待つ。 秋の夜。 風が冷たくて、だけど寒くはない。むしろ空気が澄んでいて、心地よいのに。 たまに、無性に泣き叫びたくなってそれを堪える。 胸の中の、熱い空気はきっと、わけのわからない衝動の感情。 叫んで、喚いて、泣いてしまいたい。 理由なんてきっとない。ただ、感情が爆発しているだけ。 こんな場所で泣き叫ぶほど子供じゃなくて、だけどやり過ごして歩けるほど大人でもなくて。 ただ、胸の中の熱い衝動の塊である空気が、秋の冷えて澄んだ空気に融合するのを待つ。 そう。待つだけ。 しばらくして、足を動かした。 しぼみ始めた胸の中の、熱い空気の塊に、顔を歪めながら道を歩いた。 こんなふうに、たまに泣き叫びたくなるのは自分だけなのだろうか。 俺がこの衝動を圧し殺し、誰にも知られないように歩いているように、実は他の奴も、こんな感情を圧し殺し歩いていたりはしないだろうか。 もしもそうなら、俺は普通だ。 泣きたくなるのは俺だけじゃなくて、秋の夜はきっとみんなそうなんだ。 思い込もうとして、だけど虚しくて、哀しくなった。 アパートにたどり着いたときには、すでに俺はいつもと変わらない俺で。 それが少し可笑しくて、ちょっとだけ笑いながら鍵を差し込んだ。 雑然とした室内に入り、俺はコンビニの袋をテーブルに置いて煙草を取り上げた。 窓を開けて、ベッドに腰掛け煙草を吹かす。 空腹を感じてコンビニに行ったのに、もう何かを食べる気にはなれなかった。 口にするなら煙草か、酒がいい。 思ってふと、前に行った店を思い出した。
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