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「向いてないのは自覚しているので」
「そんなこと……」
ない、と言うと取ってつけたような感じがしたので、
「周りが許さないんじゃないの」
「政治家の子は政治家、ですか? 親の職業で将来が決まるって、それこそ……差別、になってしまいませんか」
……やられた、と思った。
でもさらにタチの悪いことに、意趣返ししてやろうといった意図はたぶん、ない。
「いいじゃん、別に。いい仕事なんだから。世襲制が批判されるのは、いい仕事だからだよ。俺の仕事なんか継がせたところで誰からも文句言われない。子ども以外からは」
子ども……まぁ子どもなんて作る気ないけど。金輪際……
いけない、自分で自分の言葉に軽く鬱りそうになった。
「いい仕事……じゃあそもそもいい仕事と悪い仕事ってのは、どうやって区別されるんでしょう」
「知るかよ。何となく言っただけの言葉に食いついてくんなって。やっぱあんた、政治家の血ぃ引いてんな。政治家ってそういう揚げ足取り上手いもんな」
「揚げ足を取ったわけでは……」
「分かってる。ああほら、運転に集中しろって。掲示場所、このあたりなんじゃねえの?」
住宅街の中に入っていく。後援会のひとの家を回るらしい。
外に出て来てくれた場合は挨拶をし、不在の場合は挨拶状をポストに入れていく。
党に対する不満をズバズバ言うひとや、ゴミの回収場所について文句を言うひと、公民館の跡地問題を血眼になって訴えるひと……そんなひとたちと彼が話している間、朱莉は邪魔にならないよう後ろで控えているしかなく、こんなことになるなら初めっから言っておいてくれ、と、丸まった背中を蹴り飛ばしてやりたくなった。蹴り飛ばし……いや、違うな、両肩をつかんで引っ張って、背筋をピンと反らせてやりたい。誰と話していても、話の最後は大抵「頑張って」「期待してるから」で終わる。まるでその重みを全部背負うみたいに、背中が丸まっていっているようにも見える。
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