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吉沢がホテルの前をシャッターで切るなか、原田は小太りな体を揺らしズンズンとホテルの受付に向かい、目に力を入れると
「取材の申し込みを御願いしたエブリスタ出版の原田です。オーナーを呼んでいただけますか?」
そう言うと
フロントの女性は「少々お待ち下さい」と頭を下げると奥の白髪の男性と話し込み始めた
一通り写真を録り終えた吉沢が近づき、フロントの机に片腕を投げ出し足をイラつくように刻む原田に
「あれ?まだ行かないんですか?」
と訪ねると
「ええ、そうです!…何に手間取っているかわかりませんが待たせすぎです!」
原田が忌々しく乗務員を睨んでいると白髪の男性が近づき
ようやくか、と落ち着き払った態度で原田はスーツの襟口をパンと延ばすと
「エブリスタ出版の原田さま。大変お待たせしまして申し訳ございません」
「かまいませんよ」
先ほどのイラつきがウソのような態度に吉沢が飽きれていると
「実は原田さま、今回の取材の件なのですが、無かったことにさせていただきます」
「ええ!」
原田と吉沢が声をあげるなか白髪の男は
「事前にお断りの連絡を入れずに、このような事になり大変申し訳ありません」
と続けた。
「ちょ、ちょっと待って下さい。どういうことか説明していただきたい」
「申し訳ございません、事情は、お教えする事が出来ませんね」
「僕らは会社の命運をかけた一大プロジェクトで来ているんです。そのような話で引き返す事は出来ませんね」
原田と白髪の男が押し問答するなか、周りの視線に吉沢は、ひきつりながら苦笑いを浮かべていると
「あれ?原田さん?」
そう言うと、白のジャケットに身を包んだサラりとした髪の、二十歳後半の、さわやかな青年がニッコリ笑い近づいてくる。
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