69人が本棚に入れています
本棚に追加
丘を降り、辺りに何もないアスファルトの道を原田はずんずん進み、バスの停留所で止まると、まだ遠くに見える千鳥足の百瀬を待った。
「遅いですよ!先生」
ようやく追いついた彼に原田は文句を言うと
「先生は…ハアハア、辞めてて」と百瀬は何か言おうとするがバスが到着し、彼は先に乗り込み、百瀬はガックリと肩を落としたあと、その後を追った。
バスの中は若い男女が多数乗り込んでおり、ようやく一息ついた百瀬は、窓に目をやると赤茶のレンガにうす緑の屋根のホテルの外観が、ゆっくりと近づいてくる。
湖畔のほとりにあるレンガのホテル、やはりメルメンチックだな、と思っていると原田が小声で
「カップルに人気のスポットみたいですよ」
「そうだろうね」
「僕たち勘違いされてませんかね?」
その言葉の意味を理解し、百瀬は嫌な顔を浮かべた。
バスはホテルの玄関ロビーに到着し、お客ともに降りると原田は「いきますよ」とホテルの入り口ではなく外を歩いていく。
「ちょっと原田くんどこ行くの?」
「決まってるでしょ、野村某の絵本を探しにです!」
「野々宮清順だよ…てっ!ええ!」
百瀬が驚くのを原田は、ウインクしてみせ
「このホテルの裏手にオーナーの家があるんですが、そこは古い作りでね…きっとありますよ。お探しの本が!」
「勝手に押し掛けて大丈夫なのかい?許可取ったの?」
「もちろんアポ無しです。!が、大丈夫でしょ」
ガハハと笑う彼に百瀬は、青ざめながら観念してトボトボと後を着いていった。
ホテルの裏手の細い道をたどると、木造の広いお屋敷が見え、その格式張った門構えには年代物の表札で九鬼と書かれてあった。
それを何も気にせず堂々と入る原田を百瀬が止めようとすると
「誰かね!」
その声に、2人が視線を向けると黒いスーツ姿に中国の派手なお面を被った男が立ちはだかった。
最初のコメントを投稿しよう!