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湖畔のホテル
あれから一年後…
緑と白のストライプのポロシャツに茶のパンツ姿の二十歳になる吉沢秋穂は、ボブヘアーの髪を揺らし窓の外から湖畔にそびえ立つホテルに、何度もカメラのシャッターを切っていた。
「綺麗な場所ですね、原田さん」
顔を戻し、そう言うと
腕組しながら直立不動のまま前を見る青いスーツ姿の原田公太は、
「何を観光気分でいるんだ吉沢くん。僕らは大事な取材に来ているんだ、真剣な心構えでいないと」
吉沢はフーと息を吐くと、またシャッターをきり始めた。
(まったく面倒くさい人だ)
この少々変わった編集者の原田と新人カメラマンの彼女が湖畔のホテル、 シャトーに向かっているのは、発行している雑誌の部数落ち込みによるもので、新たな顧客を開拓するため旅行物の企画が立ち上がり、オーナーと顔馴染みだと彼の提案で、このカップルに人気なホテルに白羽の矢がたったのだ。
「しかし原田さんが、このホテルのオーナーと知り合いだとは思いませんでしたよ。彼女とでも来たんですか?」
「違いますよ。実は担当している作家の取材に協力してあげて訪れたんだけど、まあ心よく迎えてくれてねー」
「へぇ。だったら、その作家さんも連れてくればいいのに」
「それはダメだよ!僕らは会社の命運をかけた大事なプロジェクトを任されているんだからね!それに彼は僕のアイデアで出筆中だし」
…命運をかけたプロジェクトて、たんに1企画の1つじゃない…しかも新人カメラマンの私と、この変人の2人しか人員を寄越さない所からすると、あまり力が入ったものじゃないと思うけどな…
あえて、このことを言い出さず吉沢は、
「原田さんのアイデアて、どんなヤツなんです?」
「BLだよBL。これは売れるよ」
「ははは…」
得意気な原田をよそに、男に書かせて売れるかな?と思いながら吉沢は乾いた笑いを浮かべる
そんな会話していると赤茶のレンガ作りのホテルの玄関口にバスが到着したのだった。
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