夜に舞う珠

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 秋の夜、冴え冴えとした満月の光が差す草原を、一頭の馬が駆けていく。  その背には、長い黒髪を風にたなびかせる立派な体躯と美貌を持つ青年。  彼は地平線まで続く草原を一望出来る小高い丘までくると馬を止め、その背から下りた。  夕刻の雨に濡れた草の先は露に濡れ、白々とした月の光が照らす。そよそよと風が吹く中、彼は約束の時を待つ。      ※  今年の誕生日に父の後を継いで部族の長となった彼には、双子の弟がいた。  神の恵みを受け、豊かな大地を与えられている彼の部族では、長の家に生まれた双子は神の寵愛の証とされる。  彼も、顔立ちは似ているものの彼と異なり金の髪を持って生まれてきた弟もそれはそれは大事に育てられてきた。  共に生まれてきた兄弟だ。幼い頃から彼も弟も、互いを第一と思い育ってきた。  そして十五歳を迎えた朝、揃って神官長に呼ばれ、こう告げられた。  これからは神殿の最奥に住まい、十八になるまでの間夫婦として毎夜睦むようにと。  それは物心ついた時分から、両親や乳母に言われてきたことだった。  双子は神の寵愛の証。  互いに人の世にある間、金と黒の双子は婚姻を結ぶ。  そして十八歳を迎えた後、金の髪を持つ一方は神の元へ向かい、黒の髪を持つ一方は地に残る。  地に残った黒の子は、金の子と結んだ婚姻の縁にて神の恵みを地に施し、子孫を増やす。  部落のどんな娘よりも、己の弟が最も美しいと思っていた彼にとっては、待ち望んでいた時だった。  そしてまた、残酷な時の始まりでもあった。  それを知るから彼は、初夜の日に弟に問うた。 「いいのか? 今ならまだ逃げ出すこともできる」  神殿最奥の寝間、大きく柔らかな寝台の上で弟に尋ねると、弟は首を振った。窓からの月光に柔らかく波を打つ金髪が揺れる。 「幼少のみぎりより貴方だけを慕い、貴方だけの私でいたかった。今夜貴方に娶られることで、私はこの先ずっと、ただ一人の貴方の(つま)となることができるのだろう? 何を恐れることがある」  弟も己を欲し、そして全ての覚悟を持ってこの場にいる。  それを知れば躊躇はもうなかった。  同じ腹から同時に生まれた血肉を分けた兄弟。その肉のなんと甘美であったことだろう。  口吸で触れる唇はもとより舌は蕩ける果物のごとく、口に含んで転がせば膨らむ桃色の可憐な乳首、触れればふるりと震える男茎の先から零れる蜜は絞りたての乳のように滋味に溢れ。  そして弟の内奥の蕾。そこに己のものを迎えられた時の喜悦。  母の腹の中では一つであった自分達だ。こうやって身体を重ねることで覚える融合感が余人と同じわけがない。  何故に身体を重ね、何故に快楽を共有し、何故に繋がりを求めるのか。  全てはその時のため。
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