目覚め

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目覚め

 男は立ち上がり表に出ると、久しぶりの陽の光を浴びた。  ずっと外に出られなかったせいで身体があちこち痛むが、それを愛おしくすら感じる。  閉じ込められた日々は、洞穴と同じ暗さを連れて、彼を(むしば)んでいた。  しくしくと泣く胃を(さす)る手のひらは、骨の上に皮がへばりついているだけ。  それでも、外を歩ける歓びが彼の身体中を充満させる。  白い柵で造られたポーチを抜けると、通りへと男は向かった。  春の風は湿気を含まず、けれど、数日後に雨を呼びそうな気配を、男の痩せこけた頬に伝える。 (あれ……?)  男の頭を疑問が過るが、速まる両足は止まることはない。 (皆、どこへ行ったのだろう)  無人の表通りの風景に、既視感はない。  むしろ初めて足を踏み入れた異国の地のようだ。    閉じ込められてからは、ただただ眠りに落ちるだけだった。 (誰かに会わなきゃいけなきんじゃなかったっけ)  記憶が前後している。  自分が起きるのを待っている人達が居るはずだと、男の頭は明瞭に再生させる。  家々を両脇に従えた大通りに出ると、晴天がより際立った。  俯いていた顔をぐっと仰げば、青く染め上げた天穹が目に眩しい。  突き抜ける空は、雨を降らし光を注ぎ、植物を育てる。  命を運ぶ。  引き摺る足すら、軽くなった心持ちがする。  美しい、と男は思った。
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