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道なりに連れ立って歩みを進めると、白亜の建物が男の前に現れた。
誰かを探していたはずだが、行く先々どこにも人がいなかった。
物音がすることから、皆、家屋の中に居るのだろう。
目覚めたものの、己の目的を思い出せない彼は、何となしに、人懐っこい青年に同行することにした。
広々とした屋舎の中に入ると、薬品類のつんとした匂いがした。
病に苦しむ人たちが数多、この中にいるのだと すぐに理解した。
全員が一様に白い布を口元に当てている。
看病する側も、看病される側もだ。
「先ほどのお宅のご婦人が、こちらで出産されるんですよ」
迷うことなく青年は先を急ぎながら、少し後ろに連れ立つ男に説明する。
「新しい命がここで 生まれます」
「そうなんですね」
ふと、疑問が頭をもたげた。
「ところで……その方とはどういった関係なんですか」
「いいえ、特に関係はないです」
「ご家族とか友達とか、ではなく?」
「 いいえ。血縁でも知人でも、何でもありませんよ」
「それならばなぜ……」
そう青年に問いながら、彼は自分の質問が無益なものだと 同時に分かった。
にこりと微笑みながら目配せする青年についていくと、突き当たりの観音扉が出迎えた。
不思議なことに、通りすぎる誰もが、二人の姿に反応していなかった。
彼等の姿が見えていないほどに。
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