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誕生
「そろそろですね」
ハキハキと闊達に答える青年を見返す。
力むことの出来ない母体の代わりに、医師達が赤子を取り上げる。
泡が弾けるように、鳴き声が溢れ出した。
「良かった……」
目を瞑ったままの、今しがた母親と成った女性の手を、彼は強く強く握りしめた。
何やら見慣れない四角い箱が台座の近くに積まれており、その表面には数字が表記されている。ピッピッと音を鳴らし、数字は近似の値を行ったり来たりしている。
取り囲む白づくめの従事者達も、押し並べて安堵の笑みをこぼした。
「母親も無事、ですね」
青年も安心したように溜め息を付き、男とは逆側の女性の手のひらを、ぎゅっと握った。
触れられない人達の代わりに、二人の男達は、出産という大業をたった今成し遂げた母親の手を取る。
「この子は、いい季節に生まれましたね」
「そうでしょう」
生まれついた歓びを叫ぶ赤ん坊を見つめる青年の眼差しは、嬉しさを隠さない。綺麗に並んだ白い歯を見せて笑う。
この青年は何年前の同じ日に生まれたのかな、とぼんやり疑問が沸くが、元気な赤ん坊を見るとそんなことは消えてしまう。
「ここからは、あなたの力を貸して下さい」
足元に置いていた花束を再び手にすると、青年はまっすぐ彼を見た。
女性はまだ目覚めない。
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