アザミの花

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

アザミの花

「私の力、ですか?」  自分もつい数時間前に起きたばかりなのだけどな、と苦笑いしながら青年の言葉を待つ。 「はい」  束ねた草花を母親になった女性にではなく、男に差し出すと、青年は長くしなやかな指を花弁に添えた。 「おや。アザミの花が、混ざってしまっている」  見ると、薄ピンクや真綿色の花の間に、トゲトゲした濃い赤紫が混ざっていた。その花びらは針の山のようだ。  見覚えのある花だ。 「そう言えば、あなたにも由縁のある花でしたね」  自分が(なが)い眠りに落ちた時、かすかに視界に映った記憶が再生される。  引き摺る男の足の古傷が痛む。赤い血の色だな、と思う。 「触れないで。  ……そんな花言葉だそうですよ、アザミの花は」  放射線状に広がる赤い(トゲ)状の花は、こちらを拒む。  私に、触れないで。 「ご婦人自身の想いなのでしょう。  自分に触れることで、他者に迷惑をかけたくないという想い。  それが、この花を咲かせたのであれば」  自分がかつて流した血の色をした花を、昏睡した女性の温情(おんじょう)が咲かせたのならば。  彼は優しく見つめながら、青年の差し出す花束を受け取った。  摘んであげるべきだ、その為に僕は目覚めたのだと、思い出した。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!