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アザミの花
「私の力、ですか?」
自分もつい数時間前に起きたばかりなのだけどな、と苦笑いしながら青年の言葉を待つ。
「はい」
束ねた草花を母親になった女性にではなく、男に差し出すと、青年は長くしなやかな指を花弁に添えた。
「おや。アザミの花が、混ざってしまっている」
見ると、薄ピンクや真綿色の花の間に、トゲトゲした濃い赤紫が混ざっていた。その花びらは針の山のようだ。
見覚えのある花だ。
「そう言えば、あなたにも由縁のある花でしたね」
自分が永い眠りに落ちた時、かすかに視界に映った記憶が再生される。
引き摺る男の足の古傷が痛む。赤い血の色だな、と思う。
「触れないで。
……そんな花言葉だそうですよ、アザミの花は」
放射線状に広がる赤い棘状の花は、こちらを拒む。
私に、触れないで。
「ご婦人自身の想いなのでしょう。
自分に触れることで、他者に迷惑をかけたくないという想い。
それが、この花を咲かせたのであれば」
自分がかつて流した血の色をした花を、昏睡した女性の温情が咲かせたのならば。
彼は優しく見つめながら、青年の差し出す花束を受け取った。
摘んであげるべきだ、その為に僕は目覚めたのだと、思い出した。
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