イースターカクタス

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イースターカクタス

 *  外に出ると、空は澄み渡ったまま、男と青年を待っていた。  風は湿気を含まず、でも数日後に雨を降らす予告を囁く。  世界は美しかった。  瞳に鮮やかな青、吹き過ぎていく爽やかな風。  きっと、大丈夫だと男は確信する。  もう何百年も何千年も、この大地は、私達を包み込んできた。   「ありがとうございました」   左隣を歩く青年は穏やかな顔つきで、男に謝辞(しゃじ)を贈った。  自分と同じ誕生日の新生児に立ち合えて、青年は誇らしげな顔つきをしていた。 「間に合って良かったよ」 「あなたが目覚めて下さったので、大丈夫でしょう」  二人が道行く頃、後にした病室では、流行り病を克服した母親が、意識を取り戻していた。  奇跡だと、医師や看護師に祝福される母親は、幸せの涙を流す夫と家族に囲まれた。    その手で、我が子に触れることができる(よろこ)びを抱きしめる。  触れられる幸せを抱きしめる。  その傍ら、二人が残してきたブーケ(花束)には、星形をした花冠が埋め尽くされていた。  イースターカクタスという名前の花は、陽の光りを存分に受けたピンク色をして笑っていた。 「復活、という花言葉だそうです。あの花は」 「……きっと、僕のことですね」 「はい。あなたが目覚めたことを(あやか)った花なんです。  私は祝福し、用意するところまで。  そこからはあなたにお願いしたかったんです」  4月生まれの青年と並んで、肩先まで長く伸びた髪を揺らしながら男は微笑んだ。 「目覚めるのに、2000年近く、寝坊してしまいましたけどね」  この目に映る美しい世界は、必ず復活する。  春の日に再び目覚めた彼は、目を細めて笑った。
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