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黒と緑1 [8]
人里離れた森の中。《ギフト》を授かった少女たちが集められる、全寮制の学校。
寮の自室に戻ると、窓ガラスが粉々に割れていた。外からの風をモロに受けて、カーテンが大きく靡いている。
きれい、と思った。
なびくカーテンも、割れたガラスも、その下で蹲って泣いている翠子(みどりこ)さんも。すべてが完璧な配置で、ひとつのフレームの中に収まっている。
レースのカーテンが、あやすように、翠子さんの頭を撫でる。
「翠子さん」
慎重に一歩、足を踏み入れる。パリン、と、ガラスの割れる音がした。
「もう嫌なの。こんなところにずっと閉じ込められていると頭がおかしくなっちゃう。おうちに帰りたい。どうして皆平気でいられるの。おかしいのは私じゃない。皆の方よ」
「そうね」
「おうちに帰りたい。ここは怖い。ユウゴに早く会いたい」
「ほんの少しの辛抱よ。何も永遠にここに閉じ込められているわけじゃないんだから」
「私が」
翠子さんがキッと顔を上げる。絡まっていた髪を梳いてあげるつもりだったのに、おかげでできなくなってしまった。ああでも、髪が乱れていても……
「私が一番怖いのはあんたよ、玄咲(くろえ)」
……乱れているからこそ、翠子さんは美しい。
「どうしてそんな落ち着いていられるの。何もかも悟った風な顔をして。あんた何か知ってるの。あんたが黒幕なんじゃないの。私たちがこんなところに閉じ込められなきゃならないのも、時々『いなくなる』子がいるのも、皆、皆、皆……!」
パンッ、と頭上の蛍光灯が割れた。
「翠子さん!」
「きゃあっ」
慌てて翠子さんに覆い被さる。バラバラバラ、と、落ちてくる破片。
「大丈夫? 怪我はない?」
ないに決まっている。私が守ったのだから。
翠子さんの震えが大きくなる。全部『自分でやったこと』なのに、こんなに脅えて。本当、翠子さんは……
「やめてよ!」
突き飛ばされて、尻餅をつく。無防備に床に手をついてしまったせいで、ガラスで指を切ってしまった。
「ごめ……ごめんなさい、玄咲」
翠子さんはいつもそうだ。後悔するくらいなら、初めからやらなきゃいいのに。
「大丈夫よ。……保健室、行ってくる」
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