君に捧げる花・あなたに贈る花

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 へぇ、とマンションを真弧が真顔で見上げた。真弧の家から見るマンションは、視界を遮るように目の前に建っている。庭に咲く植物は馴染んでいるのに、真新しいマンションはそこだけ唐突に置かれたオモチャのブロックのようで、ここの風景を邪魔しているように睦には見えた。  家を出る際、真弧と睦は互いの連絡先を交換した。睦はいいと言ったのに、真弧が濡れた服をクリーニングに出すと言って聞かなかったからだ。 「また私の家の前、通りますよね」 「多分しばらくは、ほぼ毎日通ると思います」 「クリーニング終わったら、すぐお返ししますね。晴樹さんのお夕飯、遅くなっちゃいましたね。お腹ペコペコにさせちゃってごめんなさい」 「はい。晴樹さんにそのまま伝えます」 「えっ言わなくていいです!」  冗談に本気で慌てる真弧に手を振り、睦はマンションへ向かった。水浸しになったのは驚いたけれど、ちょっと可愛い女性と出会う事ができたので、睦の中ではそれで全て帳消しになっていた。  マンションへ着き、5階に住む晴樹に弁当を渡す。そのついでにベランダで真弧の家を探すと、すぐに見つけられた。やはり屋根の古びた感じは昔からある家のようだ。晴樹の部屋から、睦が水浸しになった場所のつつじも、真弧の家の植物もよく見える。 「睦、どうした?」  割り箸を口に咥えてタッパーを持ったまま、晴樹がベランダに居る睦の横に来た。睦の家だったら真っ先に叱られる行儀の悪さだ。いや、どこの家庭でもそんな事したら叱られるだろう。でも睦はそんな晴樹の自由気ままな所が好きだった。睦は黙って真弧の家の方向を指さした。 「そこで、来る時に水ぶっかけられた」 「マジで? お前なにしたの?」 「いや、俺がつつじの虫に驚いて変な声出したから、向こうもそれに驚いて、っていう変なトラブル」 「そりゃ災難だったな。どこの家? 相手どんな婆さん?」
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