君に捧げる花・あなたに贈る花

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   その日から睦は弁当を届ける途中で、真弧と家の前で会話をするのが習慣となった。  話す毎に睦は真弧の事を知っていく。古い家は祖母の持ち家だということ。祖母と2人で暮らしていたが、祖母が他界してしまって一人になってしまったこと。歳は睦の6歳上で25歳だということ。真弧は意外と悪戯好きなこと。よく笑うこと。  真弧さん、睦君と、呼び名も自然に変わっていった。  睦も、真弧に話をする。自宅はここから徒歩15分の距離のこと。叔父の晴樹は母親の十歳離れた弟で、嫁が実家に帰っていて、一人ぼっちの晴樹の為に弁当を届けてやっていること。叔父というよりは兄弟みたいな感じで仲が良いこと。マンション5階の晴樹の部屋から真弧の家が見えたこと。  出会った日の話もする。あの時の水は冷たかった。後から毒虫に刺されていたと気付いたこと。  そういえばあの日、晴樹が花の事を言っていた。睦は不意に思い出した。 「真弧さんの庭に洒落た名前の花がある? なんて言ったかな、ゼラム、なんとか」  うろ覚えで呟く睦に真弧は「ゼラニウム」と答え庭へ招き入れた。  表の道路から見えなかった庭の角に、大きな緑のかたまりがあり、その前に真弧がしゃがみ込む。睦も同じように腰を下ろすと、真弧が「これがゼラニウムだよ」と白い小さな花を触った。  菊に似た変わった葉っぱだ。つつじのような大きな花ではなく、小さな花が固まって薄い黄緑色の葉の間にチラチラとゆれていた。数種類のゼラニウムが植えてあるらしく、真弧の触る白い花の他に、赤、ピンク、黄と色とりどりの花が咲いている。 「表から見えないのに、よくゼラニウムが咲いてるって分かったね」 「晴樹さんが言ってたんだ。女の人に水をかけられたって喋った時に、ゼラニウムの家の子か、って」  睦の発言に、真弧は「なにそれ」と笑った。
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