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「ゼラニウムの花を覚えている晴樹さんに、ご褒美の花束を差し上げましょう」
ふざけた口調で真弧が白のゼラニウムを睦に渡した。
「大きくなりすぎたのを処分したかっただけじゃないの?」
「そうとも言う」
輪ゴムで適当に括られた花は、小学生が道端で積んだようなクオリティだ。晴樹が「なんだこれ」と苦笑いをするのが目に浮かぶ。
「文句言われたら全て真弧さんのせいだからね」
「ぶー。苦情は一切受け付けません」
顔の前で大きなバツを腕で作ってから、真弧は「いってらっしゃい」と手を振った。
「行ってきます。また明日」
後ろを振り返らず、睦はマンションに向かう。歩く度に、真弧のキスを思い出すのは、手の中のゼラニウムの香りのせいだ。
晴樹の奥さんが戻ってきても。弁当を届ける理由がなくても。もう、真弧に会いに行けると思った。
笑顔で手を振る真弧が、いつまでも脳裏に残る。
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