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次の日、睦の携帯に母から着信が入ったのは、帰宅して家の玄関を開けた時だった。
「晴樹さんが、入院?」
「そう。悪いけど晴樹のマンションに行って、下着の替えを取ってきてくれない?」
昨日、弁当と花を渡した時は普通だったのに。
入院だなんて、食中毒か何かだろうか。
「晴樹さん、どうしたの?」
睦の問いかけに、母親から盛大なため息が溢れ出る。
「ほんと馬鹿。リンゴを剥こうとしてナイフを持って歩いたら、転んでお腹を刺しちゃったんですって。死にゃしないけど一週間から十日くらいは入院ですって。ほんっと馬鹿」
2度も馬鹿と吐き捨てた母親は通話後、晴樹のマンションのキーの場所と、待ってきてほしいリストをメールで送ってきた。
睦は言われたまま晴樹の家に向かった。とちゅう真弧の家の前まで来て、睦は歩調をゆるめてみたが、真弧が出てくる気配はない。
仕方ない。睦は真弧の家を通過した。いつもより早い時間帯だし、彼女も仕事中なのかもしれない。また病院から戻ってから、改めて会いに行こう。
晴樹のマンションに着き、睦はリストを見ながら準備をしていく。下着、スリッパ、スウェット上下、携帯の充電器に、眼鏡。スポーツバッグに詰めている途中で、床に白い塊がぽつぽつと落ちている事に気付いた。拾ってみると、真弧の匂いがする。
ゼラニウムの花だった。
リビングを見渡す。白い花は床に所々落ちているけれど、昨日渡した花束が見当たらない。
今まで想像もしなかった嫌な予感が、頭をかすめた。花を握り、睦はキッチンに向かった。シンクには置きっぱなしのフルーツナイフ。グレーのダストボックスの蓋が中途半端に上がっていて、茎が飛び出ている。
引き寄せられるように睦は蓋を上げた。
白いゼラニウムの花が、晴樹の血で深紅に染まっていた。
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