季節のうつろいを

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「……あの、部長にとってはどうなんですか?」 「私にとって、か。……ふむ、そうだな。 私は別段、春に限らずとも悲しい別れをしたことはない。満足な別れだけというわけでもないが、落とし所を見つけてから別れる、という事がいままで運良くできている。 出会い、というほどの事もないな。それこそ先程の君ではないが、春というのは何事もが始まる季節なのだと、はなから思っているからね。特別な出会い、と感じたことはないな」 部長独特の回りくどい言い回しに、だるさを覚える人もいる。 けれど私は知っている。部長は回りくどいのではなく、気持ち全てを言葉にしようとしているのだ。ニュアンスが曲がることなく伝わるよう、言葉を尽くしている。そしてそれは、私も似たようなものだ。 だからこうして集まっては、お互いの思うままに語り合っている。 「つまり、特に無い、とか?」 「それはない。その年、その時ごとに思うことはあるが、一言には纏めがたいというだけさ。 今年でいうなら……あぁ、そうだな────幸せ、かな」 そうして、いつもそれとなく幕を閉じる。結論付ける時もあれば、投げっぱなしの時もある。 今日は部長の満面の笑みが、幕引きの合図だった。
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