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【伝聞】 窓にはびっしり
この業界、どうやらお化け話はよくあることらしい。
ユーザー先も、同業者でも、ちょくちょくこういう不思議現象を目の当たりにすることが多いそうだ。
営業マンの中には、以前に病院を担当していた人もいる。
たまたま営業所にやってきた部長が、よもやま話のように教えてくれた話を紹介しよう。
👻 👻 👻
「お客さんにも当然、見える人っていうのはいるわけでさ」
たまたまお化け話をしていたら、そんなことを部長が言い始めた。
この部長、大きな病院を客先として持っていたことのある人である。
ちなみに、ご本人はお化けを見たことがない。霊感0だと断言している。
「それで病院の先生のところに納品に行くと、お使いを頼まれることがあって」
仲良くなると、そういうこともあるだろう。
忙しくて手が離せないとか、業者なんだからそれくらいサービスしろよとか、色々あるのだろう。
部長の話は続く。どうやら、こんなやりとりらしい。
「君、悪いけど、あそこの倉庫からこれ取ってきてくれないかな」
「先生、そんなの自分で取りに行けば良いのに、何がいるんすか? その倉庫に」
「気付いちゃったか。あの倉庫、窓の外に赤い手形がめっちゃついてて、運が悪いと手も見えるんだ」
倉庫は5階。外から手形なんてつけられるわけがない。
「怖っ!! 嫌ですよ先生。そんな話聞いたら一人で取りにいけるわけないじゃないっすか」
「だって君、霊感0なんでしょ? 見えないならいないと同じ。手形も見えないだろうし、別段普通の倉庫だよ。でも俺が取りに行くと、頭痛はするし手形はみえるし、ダメージ大きいんだ。その点、見えない感じない霊感ゼロの君なら、無害だろ?」
正論だ。
霊感ゼロの人をそういう使い方するの、アリだな。と、話しを聞きながら私は一つ学習した。
「結局一人で取りに行ったけど、そんなん聞いたら怖いだろ。窓の方ちらちら見ながら目的のブツだけ取ってきて逃げ帰ったわけだけど、窓には何も見えなかったんだ」
「それは、残念でしたね」
「見えなくて良かったですねじゃないのか」
「見たいんじゃないんですか? 幽霊」
「そりゃ見てみたいけど、ひとりで体験するのは遠慮したい」
「せっかくの感動のご対面と恐怖感、半減じゃないですか」
「感動って……」
「それにしても、お化けも大変ですね。5階の窓、それも外から手形をペタペタするなんて、根気のいる大仕事じゃないですか」
「根気……」
「あ、指紋採取したら、誰の手形か分かるかもしれませんよ?」
「どうやって見えないものを指紋採取するんだ」
「赤いってことは、インクじゃなきゃ血では? とすると、ルミノール反応あるかもしれませんよ?」
「殺人現場じゃあるまいし」
「そしたら、部長の目にも手形くらいは見えるかも?」
良案だ。見えない人に見せる方法としてはアリなんじゃなかろうか?
「部長、是非試して来て下さい。その病院の倉庫で。ルミノール、発注かけておきますから!! あと何が要ります? 霧吹きは百均で良いですかね?」
「いや、もう担当外れてるから試せないし……」
結局、その方法が試されることはなかった。
END.
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