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【伝聞】 使われていない階からの電話とエレベーター
これは、同業者のオフィスで実際に起こった話だそうだ。
👻 👻 👻
そのオフィスは5階建てで、昔はこの5階を事務フロアとして使っていたらしい。
それを、3階を事務フロアにして、5階は普段出し入れする必要のないものを詰め込んだ倉庫にしたそうだ。
恐怖は、このフロア替えをしたことによって始まった。
しとしとと、雨が降る梅雨の季節の夕方。
電話が鳴り、そこの事務員は普段通りに受話器を取り上げ対応した。
が、最初は何も聞こえず、無言電話か間違い電話かと思っていると、唸り声が聞こえたという。
いたずらかとも思ったが、どこか気味が悪くなり、電話機のディスプレイを見ると、5階の電話番号が表示されている。何故か内線ではなく、外線でかかってきたのだそうだ。
フロアを変えた時、電話回線は当然3階へとつながるよう変更、5階は連絡用にと1つ残しただけで、他は引き上げた。この5階の電話に直接かかる番号は、外部には公表していない。内線としての機能で残した電話から、なぜ、わざわざ外線でかかって来るのか分からなかったという。
呻き声がしたことで、誰かが倉庫で倒れているのでは? と心配になった事務員は、5階へと向かおうとフロアを出て、エレベーターのボタンを押した。
すると営業から戻ってきた営業マンが、たまたま1階からエレベーターで昇ってきて、不思議な現象を見たという。
「5階で、エレベーターが止まってたみたいなんだ」
しかし、降りて来たエレベーターには誰も乗ってはいなかった。
「まぁきっと、誰も使わない時は自動で1階か5階で待機するようにプログラムされているんだろ」
そう言って笑うので、その事務員は今しがたかかってきた電話のことを話し、一緒に5階へと上がってもらったそうだ。
5階の倉庫へと辿り着くと、ドアには錠がかかっていた。鍵を開けて中に入るも、やはり誰もいない。
電話機も調べてみたが、履歴には何も残っていなかった。
おかしいとは思ったが、誰もいないのだから仕方がない。
倉庫を後にして、その日は首を傾げるだけで済ませたという。
後日。
エレベーターのメンテナンスをしに来た業者の人に、待機中のエレベーターがどういう動きをするのかを確認した。
すると、このエレベーターは最後に止まった階で暫くは止まっており、15分すると1階へと自動で降りて待機する仕組みになっているのだそうだ。その動きは最短距離を行くので、一度上に上がってから降りていくということはないらしい。
つまり、5階にエレベーターが上がる為には、5階でボタンを押して呼ばない限りは上がらないというのだ。
あの日、営業マンは5階からエレベーターが降りて来たと言っていた。ということは、誰かが直前にボタンを押して、エレベーターに乗らずに姿を消したということになる。
そのことに気が付き、気味悪く思いながら残業していた時。
再び、誰もいないハズの5階の倉庫から電話がかかって来た。
暫く受話器に耳を当てていると、呻き声が聞こえる。
電話は切らず、その事務員は営業マンに声をかけ、急いでエレベーターを見に行った。
5階で止まっている。それが動き出し、1階まで下りていった。
意を決して、エレベーターを使って5階へと昇る。
5階に着いて両開きのドアが開くと、濡れたヒールの足跡が倉庫へと続いていた。
その日は朝から大雨で、廊下が濡れて滑りやすくなる程だったから、誰かがやってきたことになる。
倉庫は鍵がかかっていた。開けて中を見回ると、誰もいない。濡れたヒールの足跡はそこにあるのに。
誰もいないので事務フロアへと戻ると、一人の営業マンが青い顔をして言った。
「5階から降りて来たエレベーターの中から、ヒールの足が下りて来たんだ。俺の目には映らないのに、エレベーターの中にある鏡には映ってて……」
車イスの人が後方確認に使う為の鏡だ。それに、ヒールの足だけが映っていたらしい。
「それ、どこへ行った?」
「え? 鏡に映らなくなったら見えないから分からないけど……」
チンッというエレベーターが止まった音がした。
しかし、誰も下りては来ない。
不審に思い見に行ってみると、そこには濡れたヒールの足跡があったという。
👻 👻 👻
「ということがあったらしい。あの営業所」
話し終えた所長がそう言うので、私はふ~んと返事を返す。
「昔、何かあったんですか?」
「いや、自殺とかそう言うのは聞いてない」
どうやら怨みとか未練とかではないらしい。
「なら、そのヒールの人、酔狂ですね」
「酔狂?」
「だって、死んでも会社に出勤するなんて、社畜じゃないですか」
「社畜……」
「あ、でもフロア引っ越してもついて行かなかったんですよね?そのまま倉庫に居続けるってことは……生前、その場所が逢引きに使われてたんじゃ?」
「逢引きだぁ?」
「フロアに電話をかけて来るのは、相手を呼び出す為か、それともそういうピーな時にスリルを味わうためにかけてるシチュエーションか!!どっちだと思います?」
「女の子がなんて妄想してるんだ。まだ結婚前だろ」
「セクハラ発言ですよ、所長。ここはやっぱり、不倫万歳な感じじゃないんですか?」
「……何で純粋な恋愛じゃないんだ」
「どこかの社内は不倫万歳な風土だから毒されたんじゃ? あ、私は噂聞くだけでお腹いっぱいですから、泥沼に連れ込まれるのはごめんです」
「俺、お前に対してそこは心配してない」
「じゃ、どこが心配なんですか?」
「自分の胸に手を当てて考えたらいいんじゃないか?」
「……分かりません」
その時の所長の顔と言ったら、なんとも表現できない程の悩ましい、いや呆れた顔をしていたという。
END.
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