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「…フラウ、この花の花言葉は?」
『"大切な思い出"です』
「…じゃあこの花の花言葉は?」
『"友情"です』
国が去年の年末に定めた、
【花を愛でる月間】
の為に人工知能が開発された。
認知度の低いこのイベントで、
自分が担当になって開発したロボット。
2mある冷蔵庫のような真っ白の箱に、スピーカーとカメラだけがついたこのロボット。
それが人工知能『フラウ』だった。
カメラの前で花を見せれば、その花の花言葉を合成音声の声で教えてくれる。
花屋の前に置いて、花の購買意欲を高める為(らしい)に作られたが、人工知能の学習に大量の花が必要になり、その他色々とあって研究費用をかなり使ってしまった。
結果、こんな質素すぎる見た目になってしまった。
白くて2mもあるデカイ冷蔵庫が、花屋の前に置いてあれば、威圧感が半端ない。
フラウが恐くて子供が泣いてしまったという話も聞いた。
花屋の前で、フラウはカメラの前に花が差し出されるのを待ち続けた。
しかしフラウの前には、花を買いに来た婦人も、妻にどの花を贈ろうか悩む旦那さんも来ず、客は興味も持たず通り過ぎるだけだった。
良くて面白半分で写真を撮る高校生達だった。
【花を愛でる月間】が終わり、フラウは静かに花屋から戻ってきた。
成果は散々だった。それでも開発を始めた頃は、自分はこの人工知能が人の役に立つと信じ、毎日奮闘して開発に取り組んだのだ。
しかし、この結果を受けてこのフラウは廃棄されることになった。
「(誰かがデータだけでも残してくれると思ったりもしたけど…)」
フラウの巨体は冷たい。
…研究所が、明日フラウを廃棄するというので、広い研究室の端でフラウに花を見せて遊んでいた。
「この花の花言葉は?」
『"大切なあなた"です』
なんだか心にしみる花言葉ばっかりだな…。
少し涙腺を熱くしながら、少し前の事を思い出していた。
開発の時、フラウに花言葉を覚えさせる為に、様々な花を揃え学習させていった。
…自分もすっかり、花と花言葉に詳しくなった。
花なんて、開発を始める前は興味も無くて知識もさっぱりだった。研究は手探りで、花について沢山調べ、何軒もの花屋を回り、人気の花や、定番の花を調査した。
自分は時間を忘れるほどフラウの開発に夢中になり、フラウと一緒に、花と花言葉について知っていった。
フラウは次々と情報を記憶し、スムーズに受け答えが出来るようになった。
まだまだ未熟な自分だが、かなり上手く学習させられた。とても嬉しかった。
研究室に残っていた何種類かの枯れかけの花を、フラウに見せていたが、次が最後の花だった。
「これは…花言葉、なんだっけ?」
可愛らしい赤い花を見せる。茎がもう折れそうだ。
フラウは
『"私を忘れないで"です』
と言った。
その言葉に、思わず涙が頬を伝った。
次の日。
さて、いよいよお別れか。フラウの電源を切る前にフラウのカメラに手を振った。
最後なので、大きく手を開いてゆっくりと振った。
「バイバイ。」
フラウは花以外に反応しない。フラウには見えただろうか。
フラウのプログラミングをしたのは自分だ。反応しないのは知っていた。
静かに手を降ろし、電源を切ろうとしたその瞬間、
『"いつまでもあなたと一緒に"です』
というフラウの声が聞こえた。
電源を切ったフラウはその巨体を倒され、業者に運ばれていった。
業者と、他の研究員達が、涙でぐしゃぐしゃの顔の自分を訝しげに見ながら。
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