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第一章 出会い
「き、貴様はたしか長州の…わ、わかった。や、やめてくれ。なんでも言うことを聞くから。」
怯える老人の言葉などまるで耳に届いていないかのごとくオトギリは首を刎ねた。
京で指折り3本に入る高利貸屋の人間の暗殺がオトギリの今日の任務だ。
真夜中に高利貸屋の屋敷に忍び込んだ。主人はまだ起きており寝室で何か書き物をしていた。
屋敷の主人の声を聞きつけた妻と奉公人たちが寝室に集まってきた。
「旦那さま!如何しました!?」
屋敷の人間は全員抹殺せよとの命令だ。オトギリは花のように刀を振るいひと呼吸のうちにその場の全員を斬り殺した。あとはさっさと逃げるだけだ。
裏口に向かう途中、錠前のかかった扉をバンバンと叩く音が聞こえた。
「旦那さま!何かあったのですか?旦那さま!」
とにかく全員殺さねば、と思い錠前を居合で斬ると扉から小汚い童が転がり出てきた。
「あっ、、、あの何か声が聞こえたようなのですが何かあったのですか?」
童は床に這いつくばるような体制で聞いた。
オトギリは童から目が離せなかった。童はまぶたが閉じられたままだったのだ。
「あの…助兵さんでですか?それとも奥方でしょうか?何か私に至らぬところがあったのでしょうか…?」
目の前に血の滴る日本刀を持つオトギリを視認できないらしい。どうやら完全な盲目のようだ。
本来ならばその場で斬り捨てなければならなかったがなぜだかその童を斬りたくないと本能的に思ってしまった。
「俺は人斬りだ。つい先ほどこの屋敷の者を皆殺しにした。おとなしくついてくるなら命だけは助けてやろう」
と低めの声で脅した。
「そんな……旦那さまも奥方さまも助兵さんも…………」
童は身を硬くしてわなわなと震えだした。
オトギリは刀を納め、童を前抱きにして屋敷を後にし、自身の街はずれの小屋に戻った。
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