第1章

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          暦は無意識のうちに、恋人に対して心に距離を置いていた。  付き合い初めの恋人同士に有りがちな、燃え上がるような熱情が段々と冷めてきてしまったという訳ではなくて、その真逆のいつか自分は飽きられてしまうのではないか? 他の人に目移りされてしまうのではないか? と、臆病者になってしまうのだ。  こんな、いつまでも自信喪失してばかりいてはいけないと、心から真剣に好きだと言ってくれる恋人にも失礼だと思いつつも、ふとした瞬間に卑屈な精神は暦の心の中でムクムクと膨れ上がり、それは瞬く間に身体中に広がっては蝕んでゆき、排除されるまでにかなりの時間がかかってしまう。  弱音を吹き飛ばして、否定的な思考をはね除けては寄せ付けない、頑丈で完全無欠な強い精神を纏ってみようと努力してみても、長年蓄積された、心の片隅にこびり付いた自己評価の低さはそう簡単には拭えないようだ。  やはり、本人が好きな物をプレゼントするのが一番喜ばれそうだ。  しかし逆に、好きだからこそ沢山持っているという発想になり、アクセサリーをプレゼントしたは良いが「これと全く同じ物を持ってるよ」なんて言われる可能性も充分に有り得るのではないか。  アクセサリーにするべきか、違う物にするべきか、一度悩んでしまうとなかなか決断出来ない。  この後は、何処のお店を見て廻ろうかなと暦が考えを巡らしていると、今になって急激に睡魔が襲ってきて、このまま瞳を閉じたら眠ってしまいそうだった。        
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