第1章

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          暦は今まで、クリスマスに何か特別な概念など持ってはいなかった。  家族と一緒に食べる夕食がいつもと違い、少し豪勢になるというくらいの認識だった。  同年代の人達がクリスマスで盛り上がるなか、暦は予定のない、白紙の一日を持て余していた。  小さい頃は、天と湖穂もクリスマスを家族と一緒に過ごしていたのだが、湖穂が中学生になった頃には家族と過ごす事はなくなり、友達と遊びに出掛けるようになり、天はクリスマスに限らず、朝と夜以外はあまり家に居る事がなく、天と顔を合わせるのは朝と夜の時間帯だけという事が増えていった。  クリスマスに自宅で一人、留守番を頼まれる時もあったが、暦は不平を洩らす事もなく、それを快く引き受けた。  暦はこれといって何かをする訳でもなく、誰かと会う訳でもなく、自室で本を読んだり、リビングでテレビを観たりと、そんな淡々とした代わり映えのしないクリスマスを毎年過ごしていた。  それが暦にとっての日常で、特に退屈だと思った事もなかった。  一人でいる事に孤独を感じる事もなく、寂しいと思った事もないのは、おそらく、その習慣に慣れてしまったからなのだろう。  けれども、今年のクリスマスは一味違う。  暦は初めて、クリスマスにはしゃぎたい気分になった。  なぜなら愛しい彼と、もっと親密になれそうな、そんな素敵な予感に胸躍り、暦の火傷しそうなほどの熱い恋情は日に日に膨れ上がるばかりなのだ。        
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