第1章

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          以前、学校帰りに街中を歩いている途中、ふと赤髪の彼が足を止めた。  どうしたのかな? と、暦も一緒になって足を止める。  恋人の視線の先には店頭に並べられたアクセサリーの数々があった。  あまりに興味深く食い入るようにしてアクセサリーを見ているものだから、暦は邪魔しちゃ悪いかなと思い、若干、離れた場所で愛する彼を待っていた。  暦は別に退屈などとは微塵たりとも思っていなかった。むしろ熱心にアクセサリーを吟味している恋人の様子が何だか微笑ましくて、もう少し眺めていたいとさえ思っていたのだが、暦をほったらかしにしている状況に気がついた恋人は慌てて暦に駆け寄ると、決まり悪そうに「ゴメン、行こっか」と、暦の手を取り、再び歩き出した。  この時、暦は(ぼくに遠慮しなくても良いのに。見たいだけ、見ていても良いのに)と思ったのだが、何故か声に出しては言えなかった。  言えないでいた理由は二つある。  一つは、アクセサリーに詳しくない自分が言ったところで、ただの悲観的な態度に捉えられそうで、それが恐くて嫌だった。  それと同時に、恋人の好きなものを一緒になって楽しく語り合えない無知な自分自身が惨めで悲しくて、そして悔しかった。  もう一つの理由は、美形の恋人からさりげなく手を繋がれた事が堪らなく嬉しかったからだった。        
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