一話目 彼女との日常

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一話目 彼女との日常

『──イルザ。俺はね。君をとっても愛しているんだよ』  秘めた思いを胸に、ライラルは今日もタタタンタン食堂へ向かっていた。  石作りの階段を上り、またすぐ先にある階段を下る。  細い裏道はポップな色の建物に挟まれていた。  黄色・水色・ピンク・赤。  カラフルな色合いの建物は、この島の別名をよくあらわしている。  ここは本土から少し離れた小島。  ポルト島。  〝海に浮かぶ花冠〟といわれる場所だった。  それはこの島を空から見るとよく分かる。  ほぼ丸い形をした島は、海沿いに円を描くようにポップな色の建物が並んでいた。  目が醒めるようなエメラルドグリーンの海の中に、丸く描かれた赤・オレンジ・ピンクの色彩。  飛行船に乗って、空から鮮やかな島の色彩をを見たある作家が〝海に浮かぶ花冠〟と表した。  作家は島の中央にある教会を舞台に恋愛小説を書いて出版。  うっとりするようなロマンスシーンが評判となり、教会で式を挙げると幸せな結婚ができるという言い伝えが広まった。  だから、小さい村でもたびたび観光客や結婚式を挙げる人で賑わっている。  ただ、村の空気はのんびりとしていた。  それは、村人が穏やかな人が多いということもあるが、猫のせいもあるだろう。  島は猫が多く、気ままに過ごしている姿をよく見かけた。
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