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「今一番欲しいものは何?」
会社帰りに僕が買ってきたプリンを食べながら恋人のしおりは言う。
毎年、僕たちは、誕生日プレゼントに本人が欲しいものを購入し、その代金を相手が払うことにしている。あと1週間で僕の誕生日だ。
今、僕は一つだけ欲しいものがある。値段が張ってしまうが、“あれ”が欲しい。“あれ”は、以前から、インターネットで調べていて、どうしても購入したいと思っていたが、しおりが許してくれるかどうか。
ただ、今後購入するとなると、毎年一回のこのチャンスしかない。思い切って言ってみることにする。
「あのさ、今欲しいもの…」
「あ、20時だ。“家に付いていきます”始まる時間じゃん!ごめん、また後で!」
彼女が大好きな番組が始まる時間になってしまった。彼女は、テレビを見る時は、集中して観ないといけないらしく、食事中でも中断して、テレビの前に行くほどだ。そして、この時間は、話しかけてはいけないという暗黙のルールがある。
そして、この時間は、決まって僕は寝室に行き、PUPGモバイル(シューティングアプリ)をする。いつの間にかそれが日課となっていた。
最初は、一緒にテレビを見ていたが、テレビ中、彼女は一切話してくれないので、僕は妙な孤独感に襲われ、一緒にテレビを観るのをやめた。
それ以降、この時間は、小説を読んだり、筋トレをしたりしていたが、どれも飽きてしまった。そんな時に広告で流れてきたPUPGモバイルを見つけたのだ。
僕は普段ゲームをしないのだが、試しにダウンロードしてみたら、意外にも戦略性があり、熱中することができた。そして、何より、オンラインで、世界中の人たちとプレイ出来るので、孤独を感じないのが良かった。
「もうこんな時間だ」PUPGモバイルに熱中していたら、気づいたら21時になっていた。番組も終わる時間だ。
しおりの元に戻ると、テレビを観ていたはずの彼女は寝ていた。
「こんなところで寝ると風邪引くよ」僕が言うと、しおりは「…ん」と、小さい声で返事をして、フラフラと寝室に歩いて行った。
しおりがいなくなった部屋で、僕は1時間だけPUPGモバイルをプレイしてから寝室に戻った。
次の日、僕は“あれ”が欲しいことをしおりに伝えると、彼女は一瞬、妙な顔をしてから、快諾してくれた。
そして、ウェブストアで“あれ”を思い切って購入した。誕生日の前日に届くそうだ。
「届いたら私にも貸してよね」しおりが意外にも乗り気な顔をして言う。
「うん。良いよ。そう言えば、今日職場でさ…」
「あ、ごめん」彼女は時計を見て、申し訳なさそうに言う。
この時間になってしまった。僕はスマホを持ち、寝室に向かう。
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