結構生きてた……

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結構生きてた……

ーーーー翌朝。 セットしておいた目覚まし時計が、5時5分前を知らせた。 私は急いでボタンを押し、アラームを止めると大きく背伸びをする。 昨日のドタバタのせいでまだ瞼は重く、意識は覚醒に至らない。 確実に起きる為に、私は一度大きく寝返りを打った。 「ぐえっ」 ぐえっ?? ふくらはぎにポヨンとした感触があり、続いてカエルを潰したような声が聞こえた。 それもベッドの中、私の足元から。 掛け布団を剥ぎ取り奥を見ると、そこには……踞ったカッパがいる。 メガネとリボンがついてないところを見ると、どうやら一之丞のようだ。 「ちょっと!なんでここにいるのよ!」 私に蹴られた一之丞は、のそのそと這い出てきて正座した。 「すまぬ……次郎太と三左に蹴られまくって……眠れず……」 「うーん……まぁ、わかるけど。いきなり中にいたらびっくりするじゃない!?」 「うむ……誠にすまぬ……」 一之丞はガックリと肩を落とした。 それを見て、私は少し言い過ぎたかもしれないと反省した。 相手は無害なカッパ。 一応性別はオスかもれないけど、身長120センチの子供だ。 大の大人が騒ぐほどのことでもない。 「仕方ないなぁ。もう、ほらおいで?」 寝転がり自分の横をポンポンと叩いて一之丞を招くと、びっくりした顔をしながらも彼はやって来た。 本当はもう起きないといけない。 でも、あと10分くらい、うとうとしていたい気分だった。 「あの……サユリ殿?」 「はい?」 「大丈夫であろうか?狭くはなかろうか?」 掛け布団から顔を出して一之丞が言った。 こんな小さなカッパ一匹くらい、抱き枕のようなもの。 しかも、手触り抜群の抱き枕だ。 イメージ的には生臭そうだけど、実際はそんなことなくて、苔のような深い緑の香りと、何かスーッと清涼感のある香りが混在している。 そのモチモチヒヤヒヤの感触を堪能しつつ、私は申し訳なさそうに見ている一之丞に言った。 「狭くないよ、モチモチして気持ちいい」 これ、真夏なら最高に気持ちいいかもしれない。 「そ、そうか!ならば良かった。うむ。良かった」 「ふふ。ね、一之丞達は何歳なの子供のカッパと大人のカッパの違いってあるの?」 昨日から気になっていたことを聞いてみた。 カッパがどのくらい生きるのか全くの未知数だったし、大人のカッパのビジュアルと子供のビジュアルの差も知りたかった。 「私は300才になる。次郎太が297才で三左が295才だ」 「300……才?」 結構生きてた……。 子供でこれなら、大人はもっと生きるのかな? 「うむ。それから、我らは子供ではないぞ?」 「……え?」 子供ではない? それじゃ……あら?え? 「とっくに大人である。子供はせいぜい50年までだぞ?」 「……へっ、へぇ?そうなんだー」 この会話のお陰で、私の目は一気に覚めた。 今、私が抱き締めているカッパは、歴とした大人のオスカッパなのだ。 そう思うと、少し引いた。 「サユリ殿?どうかしたか?顔色が悪いが……」 一之丞がキョトンとして私を見る。 その顔はとても愛らしくどう見ても無害だ。 ……良し、こう思えばいい。 一之丞達は、犬やネコと同じく、子供でも大人でも可愛い種類のもの。 年を取ってもその愛らしさは変わらないのだ、と。 「ううん。なんでもない……私、そろそろ起きるけど、ここで寝てていいからね?」 「いや、それは駄目だ。私も起きてサユリ殿の手伝いをする。お世話になるのだ、そのくらいはさせて欲しい」 一之丞はさっと掛け布団から出て、また正座をした。 「そう?じゃあ簡単なことでもしてもらおうかな?玉ねぎ剥いたりだとか、卵茹でたり出来る?」 「もちろんだ!弟達の面倒を見てきたからな!何でも出来るぞ?」 一之丞は胸を張る。 「すごいね、さすがお兄さん、頼りになるね!さて、起きて準備しようか?」 「あいわかった!大船に乗ったつもりでまかせるが良い」 ピョンとベッドから飛び降りると、一之丞は忍者のようにスタッと着地した。 私も元気よく布団から出て、大きく体を反らせてもう一度背伸びをした。
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