お仕置きはご奉仕

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お仕置きはご奉仕

「すごいのぅ。こんな鈍感なおなご、初めてみるわ。どこかに頭のネジでも置いてきたのではないか?」 四尾は笑顔で辛辣なことを言った。 最初、それが自分に向けられたと気付かなかった私は、ただ笑っていた。 が!理解すると真っ先に四尾の鼻先を掴んだ。 「なんですって?あなたね、そんなこと言える立場なの?」 「ウゴゴ……グモモ……ングウ……」 鼻先を掴まれた四尾は、くぐもった声を出し、必死で三島先生に助けを求めた。 「はははっ。綱木、今のはお前が悪いですよ?それに、まだ犯した罪の償いをしていませんね?いけない子だ」 微笑みを湛えながら言う三島先生の口調は少し怖かった。 一之丞達はぶるるっと震え、私の背筋にもゾクッと何かが走り、つい四尾の鼻先から手を離してしまった。 そして、笑みを向けられた四尾に至っては、目を見開いて卒倒しそうになっている。 「あっ、あるじさま?あの……」 「知っていますよ?村人にしたこと。あと、水神の玉を奪う為に悪いことをやりましたね?」 「……そ、それは、その……」 「お前にはお前の考えがあったのはわかります。しかし、人を傷つけて良い理由にはなりません」 「は、はぃ……」 四尾は体も尻尾も小さく丸めて、白い毛玉のようになり震えている。 あの偉そうな性悪狐を、ここまで震え上がらせるなんて、やっぱり水神様は半端なく強いんだなと私は感心した。 「綱木。お前には然るべき罰を与えます」 三島先生の抑揚のない声に、四尾は軽く飛び上がった。 「これより迷惑をかけた村人のために千の良いことをなさい。千の《ありがとう》を聞けたならその罪を赦しましょう」 「千の良いこと……千のありがとう……」 四尾は丸めた体を伸ばし姿勢を整え呟いた。 「そうです。真摯に勤め上げなさい。私はちゃんと見ていますからね?」 「えっ!あるじさま!?この綱木の側にいて下さるのですか!?」 「そろそろ彼女も退院するそうでなのでね。ここに帰って来れそうです」 三島先生は、四尾にそう言うと、次に私を見た。 母が退院する、そう教えてくれたのだ。 それは凄く嬉しかったけど、同時に複雑な気分にもなった。 カッパ3匹とアラサー女一人。 水神憑きの未亡人と、水神のストーカー狐。 この全員が同じ屋根の下暮らすと言うのだろうか?カオス過ぎない? そう考えて、私はとにかく笑ってごまかした。 「ああ、なんと嬉しいことか!あるじさまと、また御一緒出来るとはっ!ならばこの綱木、全身全霊をかけて村人の為に尽くすことを誓いまする!」 四尾はぴょんぴょんと何度も跳ね、嬉しさを隠そうともせず、高らかに叫んだ。 三島先生はそれを静かに見つめ、やがて私達へと視線を移した。 「さて、そろそろ彼女が目を覚ますようです。行かなくては。サユリさん、一之丞くん、次郎太くんに三左くん。どうか綱木をお願い出来ないでしょうか?」 「それは、サユリ殿が決めること。我らは居候ゆえ口出しは控えたい」 一之丞はそう言うと私を覗き込み、次郎太と三左も同じ様にこちらを見た。 四尾は神の遣いらしく背を伸ばし、厳粛に私の言葉を待っている。 その反省した態度を見て私は腹を括り、意気込んで言った。 「わかりました!乗りかかった船ですから。もう何匹でも面倒みますよ!」 それを聞いて三島先生は「ありがとう」と静かにいい、四尾はほっとしたように深く頭を下げた。 「じゃあさぁー?四尾は僕の子分だよね?」 三島先生の隣に座っていた三左は、膝の上の四尾を見下ろしながらフフフと笑った。 「……なんでそうなる?」 途端に不満げな顔をした四尾は、三左に鼻先を向けた。 「だって、カッパーロでの勤務日数は、僕の方が長いよねぇ?これって先輩ってことでしょ?先輩の言うことは絶対だって、藤四郎先生が言ってたよ?」 「誰じゃ!?藤四郎とは?知らんわ!」 「えー、知らないのぉー?鬼の藤四郎先生。サユリちゃんのおじいちゃん、ママさんのお父さんだよ?あれ?そうすると、三島先生のお父さんなのかな?」 三左は可愛く首をかしげた。 そんな訳あるか!と、私が突っ込む前に三島先生が言った。 「そういうことになるかもしれません。では綱木、お前は三左くんの子分として頑張りなさい」 「えええっ……あ、あるじさま……そんな御無体な……」 体の毛をぷるぷると震わせて、四尾はパタリとテーブルに倒れ込んだ。 子分が出来た三左はヒヒヒと悪い顔をし、それを見た一之丞と次郎太が楽しそうに笑う。 笑いの起こっていた店内から、ふと窓へと目を向けると、駐車場からこちらへ来る加藤さんが見えた。 「あ、お客さんですね。それでは私はこれで。またお逢いしましょう」 三島先生は四尾を私に預け、音もさせずに立ち上がると、入り口に向かって歩き出した。 ちょうど入り口の所で加藤さんとすれ違い「おはようございます」と2人は軽く挨拶を交わす。 そして、入り口を出た三島先生は次の瞬間、霞のように姿を消した。 「あれ?皆どうしたの?」 呆然と入り口を見つめる私達を見て加藤さんが言い、そのすっとぼけた声に全員が笑った。 非日常から、いつもの日常へ。 こうして、今日もカッパーロは通常通りの営業を開始するのである。
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