白い花 風に揺れて

1/8
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 いつもと変わらない土曜の朝、庭に咲く真っ白な花が風に揺れている。その芳しい香りをそよ風が、そっと運んでくれていた。 「あ〜、本当に良い香りだね〜。」 いつも明るい私の母は、そう言って微笑んだ。 この"くちなし"という甘く香る白い花は、母の大のお気に入りだった。 清々しいほど白く気高い、この凛とした雰囲気は、まるで母のようだと私は思っていた。  父は昨夜も残業で遅かったのか、まだ起きてこない。最近、家にいる父の姿をあまり見ていないような気がする。 「お父さん、昨日も遅かったの?」 「うん、仕事…大変みたいなのよ。だけど今日はお休みだから、ゆっくりさせてあげよう。」 少し俯いた母が寂しそうに見えたのは、気のせいだろうか? 「ほら、パン焼けたよ。さぁ食べよ。」 一転して明るい口調で母が言い、私は母と二人で朝食をとった。『朝ご飯はしっかり食べないとね』いつも母はそう言って、私と父に栄養バランスを考えた食事をとらせてくれている。  食事も終わりかけた頃、スーツに着替えた父が慌てて降りてきた。 「あら、どこか行くの?」 「うん、急用なんだ!じゃ、行ってくる。」 父は母が作った料理に見向きもせずに、慌てて玄関へ行ってしまい、母は急いで父の後を追った。 残された私は、お父さんも忙しいんだなと思いながら、もしや浮気とか?…いや、真面目な父に限ってそれは無いか、などと思いを巡らせていた。 黙って食事の後片付けをしている母の元へ、風は再びくちなしの甘い香りを運び続けていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!