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二人でニュースを見ながら、私達は母の話ばかりしていた。その時、ふと花瓶の花に気づいた父が呟いた。
「お母さん、この花が好きなんだよ。」
父の今さらの言葉に、私は笑った。
「知ってるよ、毎年くちなしの花が咲く頃、毎日のように良い香りだね〜って、お母さん言ってるでしょう?」
「ああ、そうだったか…、栞里はくちなしの花言葉を知ってるか?」
花言葉なんて考えたこともない私は、黙って首を横に振った。
「『喜びを運ぶ』『とても幸せです』『洗練』『清潔』だったと思う、たぶん。」
父が花言葉だなんて意外だなと、驚いた私は目を丸くした。
「ははっ、おかしいか? お父さんが花言葉を知ってるなんて。他の花は知らないけど、くちなしだけは知ってるんだ。
くちなしは、昔からお母さんが好きな花だから、結婚式のブーケ?あれもくちなしの花だったんだよ。その時に、花言葉をお母さんが教えてくれたんだ。」
「へぇ〜っ、そうだったんだ…。」
その時、テレビ画面が急に変わり、事故現場の救出の様子を映し出していた。私達は画面を食い入るようにみていた。しかし、何の情報もなく、落ち着かない時間を過ごしていた。
「お父さん、お母さんのことさ、どう思ってる?」
「ん、なんでそんなこと…」
「聞きたいからだよ、今。」
「大事な人だよ。」
「どれぐらい?」
「どれぐらいかなんて、言葉では言い表せないよ。」
父の言葉に私は満足していない。
だって、ありきたりの言い方で逃げられた気がしたもの。
「お母さんって、くちなしの花みたいな人だよね。そう思わない? 洗練、清潔ってピッタリじゃない?お母さんに。」
「そうだな、お父さんもそう思う。お母さんのそういうところは、若い頃から変わらないな。お父さんは大学生の頃から、そういうお母さんが好きだったからな…。」
父がしみじみと言った。
「ねえ、お父さん、お母さんとの馴れ初めって、どんなだったの?」
父がポカンとした顔をしたと思ったら、急に赤面した。
「何、聞いてるんだよ!親を揶揄うなよ。」
いえいえ、私は至って大真面目なんですけど。
「ちゃんと答えて!大事なことだと思うから、聞いておきたい。」
私の強い口調に父は驚いた顔をしたが、すぐに気を取り直したように苦笑いをして私を見た。
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