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それから俺はまた毎日のように図書館に通った。
青山さんからの連絡を待っててもよかったんだけど、入れ違いになるのはいやだったから。
できるだけ空いた時間は図書館で過ごしていた。
でも先生はずっと来なくて。
せっかく青山さんに後押ししてもらって勇気が出たのに、焦りばかりが膨らんでいく。
やっぱりもうここには来ないんじゃないかって。
あの日が先生と会える最後のチャンスだったのかもしれないって。
不安ばかりが押し寄せる。
なんであの時、先生にあんなひどいこと言っちゃったんだろうって後悔してる。
せめて、そのことだけでも謝りたい。
そうやって時が過ぎていき、とうとう本を返す期限の日になった。
いつもの図書館で、いつもの席に座る。
「今日来ますかね」
青山さんは本を抱えながら俺に聞いていた。
「どうですかね」
今日来なかったら先生を諦める。
なんて、そんな覚悟すらできていない俺。
もし来なかったら俺はどうするんだろう。
そんな俺を諭すように、青山さんは俺の背中を大きく振りかぶって叩いた。
「いっっった」
パチンという音が館内に響き渡る。
「気合い入れて、頑張って下さい。上手くいかなかったら一生呪いたおしますから」
「はい…」
青山さんの顔が真顔すぎて、本気で呪われそう。
でもこうやって応援してくれる人がいると思うだけで、ちょっとだけ強くなれる気がする。
なんだかんだで、青山さんにはいつも救われてるな。
図書館に来てから1時間が過ぎようとしている。
無駄に時計を気にしては、図書館をきょろきょろと見渡す。
あーダメだ、やっぱりソワソワする。
手には尋常じゃないくらいの汗が滲んでくるのに、凍ったように冷たい。
そんな時急にスマホが震えて、館外に出て電話に出た。
柾木からだった。
「お前今どこにいんの?」
「図書館」
「はー?お前マジメかよ、飯でも行こうぜ」
柾木はいつものテンションで、その声を聞くと今のこの緊張がちょっとだけほぐれる気がする。
「ごめん、今日は大事な用事があるから」
「俺より大事な用事ってなんだよ」
いや、やっぱり柾木のこーゆうノリは正直面倒くさい。
でも柾木にはちゃんと言っておきたいと思った。
先生のこと。
「今日、先生に会えるかもしれないんだ」
意を決して言った俺の言葉に、柾木からは何の返事もなかった。
「もしもし?」
俺が投げかけてみても無言は続いて。
「よかったじゃん」
やっと柾木が喋ったと思ったらすごく落ち着いたトーンだった。
「なんか、お前からそんな報告されたことないし、なんかあれだな」
「あれってなんだよ」
「焦るって言うか?よく分かんねーけど」
「なんだよそれ」
電話越しにも柾木の戸惑っている感じが伝わってくる。
なんでも言えって言ったのは柾木なのにな。
「まあ、頑張れよ。失恋したら、俺が慰めてやるからな」
柾木はそう言って電話を切った。
失恋することが前提なんだ。
柾木は人懐っこいんだか、素っ気ないんだか、未だに分からない。
でも柾木と話した後は、止まっていた血液が身体中をめぐるように、指先まで温かくなっていた。
今までの俺だったら、自分の気持ちを誰かに言ったり、相談したりなんて絶対なかったのに。
少しずつだけど俺は変わったのかもしれない。
こうやって、俺のことを気にかけてくれる人がいる。
それは昔の俺からすると全然予想もできなかったことだった。
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